2022年07月01日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「エネルギー・円安・物価ー2022年下期経済見通し」(2) 渡辺努・東京大学大学院教授

会見メモ

渡辺努・東京大学大学院教授が「急性インフレ」と「慢性デフレ」の2つの病を抱える日本の現状を解説。「慢性デフレ」改善に向けた今後の課題として賃金予想を改善させることができるのかがポイントになると指摘した。

 

司会 播摩卓士 日本記者クラブ企画委員(TBS)


会見リポート

慢性デフレ脱却へ 賃上げが鍵

直居 敦 (日経CNBC解説委員長)

 日本銀行からアカデミズムに転じ、さらに物価を中心とする様々なデータ収集、提供を目的とする企業、ナウキャストの創業者・技術顧問でもある渡辺努氏。物価と金融政策研究の第一人者として著名だが、思わぬ展開で注目が集まる中での会見となった。黒田東彦日銀総裁が、足元の物価上昇について「家計の許容度も高まってきている」などと発言したことが批判を浴び、発言撤回に至ったのが6月8日。その根拠として引用されたのが渡辺氏らによる調査研究だったからだ。

 この日の会見では、調査の概要を紹介したうえで「日本人のインフレ予想に近年は見られなかった変化が起きている」などと指摘した。

 日本は今「慢性デフレ」と「急性インフレ」の二つの病に苦しんでいる――というのが渡辺氏の見立てだ。「慢性デフレ」克服の鍵は①インフレ予想の改善、②消費者の値上げ耐性の改善、③賃金(予想)の上昇だという。渡辺氏は「急性インフレ」の影響もあってか①と②の条件を満たしつつあるとみる。値上げにとても慎重な日本企業が次々と値上げに踏み切り、それを消費者が「渋々にせよ」受け入れつつある点は、大きな変化だ。残るピースは賃上げ――。日本経済は、慢性デフレ脱出に向けて大事な分岐点を迎えているようだ。

 物価、金融政策といった分野は、一般の人々にとって、そして記者にとっても決してとっつきやすい分野ではない。だからこそ専門家の知見、研究や政策運営が必要なのだが、同時に広く一般の人々の理解を得ることが、健全な政策遂行のうえで欠かせない。

 冒頭に記した関心の高さを映し、所定の時間を大幅に超えてなお質問が途切れなかった。努めて分かりやすく対応していただいた渡辺氏に改めて深謝したい。その態度には物価と金融政策研究に打ち込み、かつそれを広く理解してもらいたいという誠実な使命感を感じた。


ゲスト / Guest

  • 渡辺努 / Tsutomu WATANABE

    東京大学大学院教授 / Professor of Tokyo University

研究テーマ:エネルギー・円安・物価ー2022年下期経済見通し

研究会回数:2

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