2022年07月13日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「科学技術立国」(5) 榎木英介・一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事

会見メモ

国立大学や公的研究機関に勤める任期付きの研究者などの非正規職員が、2023年3月末で大量雇い止めになる可能性が指摘されている。

フリーの病理診断医で、若手研究者のキャリア問題に詳しい榎木英介・一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事が、「日本の研究を破壊する大量雇い止め」と題し、研究者のキャリアパスの現状、雇い止め問題、短期、中期で必要な施策のあり方などについて話した。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

差し迫る研究者の大量雇い止め

川澄 裕生 (共同通信社科学部)

 2023年春、大学や研究機関に勤める多くの任期付き研究者が雇い止めとなる恐れがある。一般社団法人「科学・政策と社会研究室」の代表理事で、研究者のキャリア問題に詳しい榎木英介氏が会見で明らかにした。有期労働契約者の無期雇用への転換を義務づけた改正労働契約法を免れる目的で、所属先が契約を打ち切る可能性があるためだ。榎木氏は「差し迫った問題」と危機感をあらわにし、日本の研究者の労働環境の問題点を指摘した。

 雇い止め対象には実績のある研究者も含まれるという。背景にあるのは、40歳未満の若い世代への支援に舵を切った国の方針だ。日本の研究レベルの低下や若手研究者の減少が指摘される中で、国は博士課程に進む学生への金銭的支援を拡充し、若手の雇用の改善も進める。対照的に今の40代の研究者は若い頃に十分な支援を得られず、むしろ国立大学の法人化に伴う運営費交付金の削減で厳しい雇用状況に置かれていた。今度は若手支援の憂き目に遭うこのような研究者を、榎木氏は「研究ロスジェネ世代」と名付けた。

 話題は、中国が優秀な海外の研究者を招へいする政策「千人計画」にも及んだ。軍事技術の流出と関連づける報道の問題点を指摘。日本国内に研究者の職がないために中国に流れざるを得ないのが現状といい、「問題を直視しなければ、人材流出の悪循環が続く」と訴えた。

 会見の最後にはある研究者の声を紹介。「論文を書いても研究費を獲得しても評価されず、任期が来たら大学を去らなければならない」と嘆き、一時は命を絶つことも考えたという。榎木氏は「研究者の人生を考えずに研究力だけ上げようというのは虫が良すぎる。国は『選択と集中』の政策をゆるめ、支援の裾野を広げるべきだ」と強調した。 


ゲスト / Guest

  • 榎木英介 / Eisuke ENOKI

    医師、病理専門医、細胞診専門医、博士(医学)、一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事

研究テーマ:科学技術立国

研究会回数:5

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