2022年05月31日 16:30 〜 17:30 10階ホール
総会記念講演会 猪木武徳・大阪大学名誉教授

会見メモ

『経済思想』『自由と秩序』ほか多くの著書で経済学と社会の在り方を示してきた猪木武徳さんが「資本主義の将来を考える」の演題で話した。

 

司会 根本清樹 日本記者クラブ理事長


会見リポート

資本主義の代案 見当たらず

小竹 洋之 (企画委員 日本経済新聞社コメンテーター)

 資本主義には「光」と「影」の両面がある。「イノベーションと成長の原動力として、しかしまた危機と搾取、疎外の源泉として議論される」と評したのは、ドイツの歴史学者ユルゲン・コッカ氏だった。

 こうした資本主義の不安定な側面に、猪木氏は焦点を当てた。世界中で反響を呼んだ2つの著書を取り上げ、政治や経済、社会の変容を多面的に論じたのが印象に残る。

 1つは経済学者ブランコ・ミラノヴィッチ氏の『資本主義だけ残った』。米国型の「リベラル能力資本主義」と中国型の「政治的資本主義」に分類した同氏の主張を紹介しつつ、いずれのモデルも富の偏在やプライバシーの侵害といった共通の問題を抱えていると述べた。

 もう1つは経済学者のアン・ケース氏とアンガス・ディートン氏の『絶望死のアメリカ』である。米国では薬物中毒、アルコール依存、自殺などによる白人中高年層の死亡が目立ち、グローバル化やデジタル化に取り残された人々の窮状を象徴する現象と捉えられている。そんな「病理」からも学ぶべきだと説いた。

 さりとて資本主義に取って代わるオルタナティブ(代案)は見当たらないと猪木氏はいう。多くの欠陥を露呈しようが、うまく使いこなしていくしかないのは確かだ。

 私たちは歴史の大きな節目を迎えるたびに、資本主義のあり方を問い直してきた。「市場の機能」と「国家の介入」のバランスをどうとるかについても、その時代の要請に応える最適の解を探してきた。

 冒頭のコッカ氏は「資本主義は学ぶことができ、そうした利点を民主主義と共有している」とも記す。猪木氏も同じ思いなのではないかというのが個人的な感想である。

 日本では岸田文雄政権が「新しい資本主義」を問うている。猪木氏の講演をしっかりと受け止め、メディアも骨太の論戦を挑みたい。


ゲスト / Guest

  • 猪木武德 / Takenori INOKI

    大阪大学名誉教授

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