2022年06月23日 17:00 〜 19:00 10階ホール
2022年度日本記者クラブ賞・同特別賞受賞記念講演会

会見メモ

本年度日本記者クラブ賞を受賞した日本経済新聞編集委員の井上亮さん(写真左から1、2枚目)と、同特別賞を受賞した西日本新聞「あなたの特命取材班」(あな特)から同社クロスメディア報道部長の堺成司さんが、印象に残る取材や報道にかける思いを語った。

 

井上さんは、長年の皇室取材の経験と近現代史の深い知見に基づき、象徴天皇制と皇室のありようについて、冷静に考察、論評してきた。「あな特」は、読者の疑問や困り事をLINE等で募集、その情報をもとに記者が取材し紙面化する「読者と共につくる新しい調査報道」を展開している。

 

司会 江木慎吾 日本記者クラブ専務理事


会見リポート

●「日本人とは」を問い続けて クラブ賞 井上亮さん(日本経済新聞社)

 「歴史家の目を併せ持つジャーナリスト」というのが井上記者への贈賞理由である。蓋し同感であり、年次は大きく離れているが、同じ社で同じ皇室担当の経験を持つ身としては、まことに誇らしい受賞である。

 「歴史とは現在と過去との間の尽きることのない対話である」というE・H・カーの言葉をあげて、井上記者はその歩みを振り返った。抜いた抜かれたの厳しい日々の競争のなかで「歴史家のまなざし」を持ち続けるのは異数のことである。

 学者や作家と違って新聞記者が一つの担当領域をずっと持ち続けるのはむしろ例外であろう。歴史に残る特報となった「富田メモ」の報道にしても、いったん皇室担当を離れて地方支局への転勤などをはさみながら、かつての取材先の家族との親密な関わりを大切につないで、それが昭和天皇の残した「言葉」としてよみがえったのである。

 「歴史家のまなざし」が過去という沃野から、生々しい「歴史の言葉」を降臨させたというべきだろうか。

 平成の天皇皇后は沖縄訪問などを通して日本人の〈負の歴史〉を見つめたが、令和の皇室が同じ形をそのまま受け継ぐことはできない。

 象徴天皇制のこれからを見定めながら、「日本人とはなにか」という大きな主題にぜひ筆を進めてほしい。

柴崎 信三(日本経済新聞出身)

 

●「あなたの」から「あなたも」へ 特別賞 西日本新聞「あなたの特命取材班」(堺成司 クロスメディア報道部長)

 「20年前に拡幅された道が元の狭さに戻りそうだ」――。読者らから届くこんな疑問や困りごとの調査依頼を編集局の全員で共有し、関心ある記者がその理由や背景などを取材する企画「あなたの特命取材班(あな特)」。事務局を務める堺成司さんの元に情報を寄せてくれるのは、LINEでつながる人たちだけで約1万5千人に上るという。2021年度の新聞協会賞を受けた「愛知県知事リコール署名偽造報道」のきっかけまで、多くの情報が寄せられる。

 堺さんは「私たちもアンケートをして初めて気付いたのですが、『あな特』は、社会の役に立ちたいという人の思いを受け止めているようです」と明かした。「あなたにとって『あな特』とは?」との質問に、回答した人の6割が「社会参加」を選んだ。読者との距離が広がっているという危機感から「あな特」が始まって5年目。「自分も報道に参加していると思ってもらっているとは……。うれしい驚きでした」

 堺さんは企画名を「あなたも特命取材班」に改称する意思があるという。「地域の皆さんが権力監視機能を果たす社会が理想。地域の自立に向けて市民とともにつくる報道が、次代のジャーナリズムだと思う」

蛭牟田 繁(朝日新聞社ジャーナリスト学校記者教育担当部長)


ゲスト / Guest

  • 井上亮 / Makoto Inoue

    日本

    日本経済新聞社総合解説センター編集委員

  • 堺成司 / Seiji Sakai

    日本

    西日本新聞クロスメディア報道部長

ページのTOPへ