2022年04月18日 15:30 〜 17:00 10階ホール
「成年後見制度改革の必要とその方向性」 山野目章夫・早稲田大学大学院教授

会見メモ

認知症や知的障害などで判断力が不十分な人の意思決定を支援する成年後見制度に関して、政府は3月に第二期成年後見制度促進基本計画を閣議決定した。

計画では、利用者を増やすことだけでなく、成年後見制度以外の権利擁護支援策を総合的に充実させていく必要性が説かれている。

基本計画を策定した専門家会議の委員で、早稲田大学の山野目章夫教授(民法)が成年後見制度の現状を踏まえ、今後必要な施策について話した。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)

 


会見リポート

より使いやすく、担い手を多く/成年後見制度、法改正と福祉改革が必須

長友 佐波子 (朝日新聞出身)

 2025年には約700万人(厚労省推計)になると見込まれる認知症患者。判断力が低下した時、本人と家族の暮らしを支える仕組みの一つが成年後見制度だ。だが使い勝手の悪さなどから、利用者は約23万人(20年末)に留まる。利用を促すために政府は3月25日、第二期成年後見制度利用促進基本計画を閣議決定した。この専門家会議の委員も務める早稲田大学の山野目章夫教授(民法)が登壇した。より使いやすく、担い手の多い有効な制度にするため、法改正の必要性と社会福祉の改革を訴えた。

 国の新しい基本計画で山野目教授が特に注目したのは、後見人の交代について、制度の将来見直しを示唆した点だ。これまで、成年後見人はひとたび家庭裁判所によって選定されると、被後見人が亡くなるまで続くため、不満が多かった。

 被後見人本人と家族にしてみれば、毎月2~3万円といった報酬を終生、後見人に支払い続ける負担感が大きい。本人が長生きすればするほど、資産を減らすことになる(しかも資産の運用は許されない。被後見人の資産保全が第一目的なので、株や投資など「安全ではない・リスクのある」資産運用はできず、実質的には預金を食い潰すばかりだ)。一方、弁護士ら後見人を務める専門家にとっては、ずっと続く業務にもかかわらず、対価は安く、面倒も多かったという。

 この後見人を、「期間を限る」と民法の規定を改正すれば、制度の使い勝手がよくなり、運用しやすくなると、山野目教授は力説する。後見人が期間限定ならば、交代は円滑にできるというのだ。例えば、自宅不動産の処分や施設の入所、親族の遺産分割など、専門家の手が必要な契約業務が終わったら、家族に後見人を引き継げばいい。家族にも専門家にも利点がある。報酬額についても、裁判所の裁量で決めるのではなく、法令で基準を定めておけば透明性が保てると言う。

 (とはいえ、実際には裁判所が家族後見を認めてくれないのではないかと、筆者は個人的には危惧する。制度運用では、裁判所による恣意的な後見人決定こそが課題と感じるからだ。たとえ後見人の交代が容易になっても、前の専門家から次の専門家へと移るだけになるなら、家族にとっては意味がない)

 また、山野目教授は、地域の社会福祉事業の改革も提案する。認知症患者に限らず、心身の不調や衰えなどから日々の暮らしで手助けが必要な高齢者までも包摂する仕組みだ。制度を支える新たな担い手は、民間事業者の参入で増やし、消費者保護をしつつ、育てるという。こうした包括的地域支援は、今年度から国が始めるモデル事業で試行されるという。

 目指すのは、高齢者が老いても地域で生活できる社会だ。被後見人や要支援者の金銭管理サービスを担うのは金融や生保などの民間事業者、日常生活を手伝うのは当事者団体や市民後見人養成研修を終えた個人、それらの業務が適正に成されているかを監督・支援するのは社会福祉協議会などの専門職団体。三者セットで運用されれば、横領や不正などの犯罪は防げるともくろむ。現在は裁判所が担っている、制度を監督・支援する役割を社福協などに任せることで、需要爆発により裁判所が対応しきれなくなる事態も避けられるという。

 こうした社会福祉改革を実現させるには、民法をはじめ関連法の改正が必須になる。これが最大の難関だ。ほかに金銭的な負担について、どこまで被後見人に求め、どこから減免するかといった基準も議論しなくてはいけない。

 ただ、高齢者福祉は高齢者だけではなく、現役世代の問題でもあると、山野目教授は強調した。放置すれば、結局は中高年や若い世代にしわ寄せが及ぶ。高齢の家族を支えるために働き手が減ることになれば、社会全体の損失にもなる。

 さらに山野目教授は、包括的な地域福祉改革ができれば、成年後見を利用する高齢者や障害者に限らず、他の福祉対象者にも援用できると、期待を込めた。例えば、離婚後の養育費未払い問題には、国が保証人的な立場で最低限の養育費を保障する仕組みができないか。幼くして保護者を亡くし、自立せざるを得なくなった子を支援する「未成年後見」や、資産を形成するのが難しい、精神障害や発達障害のある子たちの「親亡き後の支援策」問題。ほかにもヤングケアラー対策など、若者や現役世代の福祉ニーズも、地域がともに福祉課題に取り組む「地域共生社会」の枠組みで対応できないかと提言する。

 時間はない。団塊の世代がみな後期高齢者になる2025年まであと3年。より使い勝手が良く担い手の多い成年後見制度と、地域で高齢者を支える仕組みに移行できるか。高齢者も家族もみなが安心して暮らせる、持続可能な福祉制度に変革できるか。そのためにもメディアには、報道と政策ウオッチを続けてほしいと、山野目教授は最後に求めた。


ゲスト / Guest

  • 山野目章夫

    早稲田大学大学院教授

研究テーマ:成年後見制度改革の必要とその方向性

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