2022年04月05日 15:30 〜 16:30 10階ホール
映画「ドライブ・マイ・カー」受賞会見

会見メモ

第94回米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の監督の濱口竜介さん(写真1枚目)、主演の西島秀俊さん(写真2枚目)、プロデューサーの山本晃久さんが会見した。日本での会見は帰国後初。濱口さんは受賞の喜び、作品に込めた思い、今後の抱負などについて話した。

 

司会 大内佐紀 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

代表質問 中村正子 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

地に足着けた企画で、世界へ

勝田 友巳 (毎日新聞社学芸部専門記者)

 映画「ドライブ・マイ・カー」は、米アカデミー賞で日本映画として初めて作品、脚色賞の候補となり、2009年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来の国際長編映画賞(当時は外国語映画賞)を受賞した。3人の言葉から、受賞は足元を深く掘った結果だったことがうかがえる。そして、日本映画が世界で勝負するための課題も垣間見えた。

 「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹さんの同名の短編小説に、他の2作品を織り込んで濱口竜介監督らが脚色した。濱口監督と同世代の山本晃久プロデューサーが持ちかけたという。

 濱口監督も村上さんの小説を愛読していたが、人物の内面に言葉で深く分け入る小説と、映像で物語る映画とは表現の質が違う。自身が受け取った「核」の映像化を心がけた。

 その演出法は独特だ。撮影前、俳優に脚本を感情を込めずに何度も読ませ、セリフを体にしみ込ませる。主演俳優の西島秀俊さんは「先入観なく内容を体に入れて、相手の声を聞く。相手の存在そのものを支える要素を体感する、今までにない体験をした」と振り返った。

 受賞によって濱口監督の名前は世界的に知られ、海外での映画製作も視野に入る。ハリウッドからのオファーについて聞かれた濱口監督は、「ノマドランド」で作品賞を受賞した中国系米国人のクロエ・ジャオ監督に「正気でいなさい」とアドバイスされたと明かした。そして「地に足を着けて、類型的でなく個人的に響き合うものがあれば挑戦したい」と冷静だ。アカデミー賞を「通過点」といい、「自分の中に面白い映画を見いだすことが、世界に通じる方法だ。前よりちょっとでもいい映画を作りたい」という姿勢は、これまでと変わらない。

 濱口監督はハリウッドを「桁外れの世界」と表現した。「ドライブ・マイ・カー」の製作規模は、ハリウッドの足元にも及ばない。一方で、自身と並んで候補となった監督たちの名前を挙げて、「スティーブン・スピルバーグもポール・トーマス・アンダーソンも、個人的な映画の喜び、人生の傷を作品に昇華している。予算の規模ではなく、カメラと被写体がどんな関係を作るか、その先に誰もが認める価値があるのではないか」という。

 とはいえ、思いだけで映画は作れず、限界もある。国を挙げて映画を後押ししてきた韓国は、すでに日本の先を行く。山本プロデューサーは「日本でも、人材育成や労働環境改善に切り込む意識が芽生えてきた。内需に頼る部分が大きいが、海外に向けて作る意識をより強く持たないといけない」と訴えた。濱口監督の印象では、ハリウッドでの日本映画全体への関心が高いわけでもないという。日本映画のさらなる飛躍のために、映画界と、映画を取り巻く環境全体の見直しが求められている。


ゲスト / Guest

  • 濱口竜介 / HAMAGUCHI Ryusuke

    監督

  • 西島秀俊 / NISHIJIMA Hidetoshi

    主演俳優

  • 山本晃久 / YAMAMOTO Teruhisa

    プロデューサー

ページのTOPへ