2022年04月12日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「ウクライナ」(10) 長有紀枝・立教大学教授、難民を助ける会会長

会見メモ

ロシアによるウクライナ侵攻は、欧州で第2次世界大戦後、最悪の難民危機を引き起こしている。

ウクライナの隣国ポーランドやモルドバで支援活動を行っているNPO法人「難民を助ける会(AAR)」の会長で立教大教授の長有紀枝さんが登壇。記録的な規模と速度で流出した難民・避難民の状況、ウクライナにおける人道課題について話した。

 

司会 大内佐紀 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

「難民」支援 応分の負担を

荒 ちひろ (朝日新聞社GLOBE編集部)

 長さんはウクライナの難民・避難民を巡る状況や人道的課題、国際法上の問題点など、様々な領域にわたる課題について、難民支援の現場で活動してきた経験もあわせて解説した。

 侵攻から1カ月半で450万人超がウクライナ国外へ流出している。速度や規模、大半が子どもと女性で、近隣国が積極的に受け入れているなどの特殊性が挙げられている。一方で、世界の難民の73%(2020年末)が近隣国に避難しているという。状況が落ち着けば元の場所に戻りたいという思いや、文化や気候的な近さが好まれる傾向、現実的に遠くまで避難する金銭や体力、手段がないといった事情は共通しており、普遍的課題であることを指摘した。

 国家安全保障の危機下で、「人間の安全保障」はどう機能するのか、国内避難民の保護の難しさや、一律に18〜60歳の男性が出国できないなど何の議論もなく多様性が切り捨てられている現状についても課題を示した。

 国連安保理の常任理事国であるロシアに対し、実効的な手段をとることの難しさについても触れた。対応し得る既存の仕組みとして国際刑事裁判所を挙げ、武力紛争法やジェノサイド条約などを整理、過去の事例と比較しながら、限界がある中で今何ができるのか、可能性を考えた。

 日本政府は、難民条約を根拠にウクライナ「難民」ではないとの立場だが、「世界の潮流はそうではない」として定義の広がりを説明。政府の迅速な「避難民」受け入れは評価したいとする一方、特例でとどまるならば「説明がつかない」と指摘した。

 ウクライナから日本への避難希望者は少ないとみる一方で、国際社会の一員として、応分の負担が必要だと述べ、「難民の受け入れなど賛否が分かれる問題について、日本が国際社会の中で責任を果たしていく意思があるならば、政府が決断し、国民に理解を求めるような形があるべき姿ではないか」と語った。


ゲスト / Guest

  • 長有紀枝 / Yukie OSA

    立教大学教授、認定NPO法人難民を助ける会(AAR Japan) 会長 / Professor, Rikkyo University / President, AAR Japan

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:10

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