2022年04月08日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「脱炭素社会」(5) 深尾三四郎・伊藤忠総研上席主任研究員

会見メモ

※You Tubeでの動画公開は4月15日(金)17:00までです。ご了承ください。

 

世界で自動車分野での脱炭素、電気自動車(EV)への動きが加速している。

深尾三四郎・伊藤忠総研上席主任研究員が、欧米が脱炭素・EVにシフトする背景や今後の動きなどについて解説した。

深尾さんは次世代モビリティにおけるブロックチェーン技術の標準規格策定などを行う任意団体「Mobility Open Blockchain Initiative(MOBI) 」の理事も務めている。著書に『モビリティ・ゼロ 脱炭素時代の自動車ビジネス 』(日経BP社、2021年10月)。

 

司会 中山淳史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

 

 

 


会見リポート

電池のルール 熾烈な争い

深尾 幸生 (日本経済新聞社ビジネス報道ユニット)

 「500年に一度の革命」。深尾三四郎氏は現在、社会で起きている現象をこう描く。大きく構えたその意図は、「信用創造」と「情報」の2つの革命が、脱炭素という競争の主要なルールを形成していることを印象づけることだ。

 ペストと宗教改革が起きた中世欧州で生まれた複式簿記と活版印刷。信用創造と情報の非中央集権化のツールは、パンデミックと戦争が再来した約500 年後の現代で「ブロックチェーン(分散型台帳)」と「Web3(ウェブスリー)」に進化を遂げた。これらの技術の登場で、これまで難しかった脱炭素や持続可能性に関するデータの可視化が実現するという。

 電気自動車(EV)では、原材料の調達から生産・流通を含めたカーボンフットプリントを削減し、証明する義務があるだけでなく、可視化されたデータが取引可能な「通貨」として価値を生む。例えば電池の健康状態を示す「電池パスポート」。その時々の電池の品質がわかれば、中古EVの価値が上がったり、リユースやリサイクルの仕組みが最適化されたりする。深尾氏は「電池を巡って熾烈なルールメイキングの争いが起きており、自動車メーカーの最大の関心事」と話す。

 ルールメイキングは日本にとって苦手分野だが、巻き返してほしいところである。心配になったのが「日本は自動車業界と官、特に経済産業省との距離が開き過ぎている」という指摘だ。私が3月末まで駐在した欧州・ドイツでは一枚岩とは言わないまでも官民が密接に連携し、国家間の競争に勝とうという意志を感じる場面は多かった。

 日本の自動車メーカーが伝統的に強い東南アジア市場でも中国勢などによる切り崩しが進む。日本の官民が新しい価値のマインドセットを共有し、それに基づいてアジアの国や地域にとってもメリットがある仕組みを売り込めるか。「東南アジアでのルールメイキングは日本の自動車産業にとって死活問題」との指摘は重い。


ゲスト / Guest

  • 深尾三四郎 / Sanshiro FUKAO

    伊藤忠総研上席主任研究員 / Senior Research Fellow, ITOCHU Research Institute Inc.

研究テーマ:脱炭素社会

研究会回数:5

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