2022年03月24日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「ウクライナ」(5) 小山堅・日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員

会見メモ

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから1カ月。欧米を中心とするロシアへの経済制裁もあり、原油、LNGなどのエネルギー価格の歴史的な高騰が続く。日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事・首席研究員が、エネルギー情勢を分析するとともに、今後注視すべきポイント、各国のエネルギー政策に与える影響などについて話した。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 

 


会見リポート

侵攻がもたらすエネルギー危機

田村 賢司 (日経ビジネス編集委員)

 ロシアのウクライナ侵攻は、脱炭素で化石燃料から再生可能エネルギーへの移行期にあるエネルギー供給の脆弱さを世界に強く印象づけた。各国は、原油・天然ガスなどの価格高騰と供給不安に備えてエネルギー安全保障政策の抜本的強化を迫られると小山専務理事は指摘する。

 ただしエネルギー価格は、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の停滞と回復で、下落の後、既に上昇をしていた。コロナ禍で原油は20年春には瞬間的にマイナス価格にまで落ちたが、その後は回復し、21年秋には1バレル80ドルを超えた。そこに襲ったウクライナ危機で、今年3月初めには約130ドルに達した。天然ガスはさらに暴騰し、原油に換算すると400ドルを超えるところまでいった。

 ロシアは生産量で原油が世界3位、天然ガスは2位という大供給国である。侵攻で米欧日など西側主要国は、ロシアに厳しい経済制裁を科したことで同国のエネルギー取り引きに制約が出たり、パイプラインなどの輸出インフラが損害を受けたりすることへの懸念が背景にある。

 だが、より深刻なのは、地政学リスクや脱炭素化など世界の複雑極まりない状況の中でエネルギー供給が大きな影響を受ける時代に入ったことだ。原油やガスなどの高騰が侵攻から始まっているのは、この10年、エネルギーの供給余力が減ってきているからだ。脱炭素化で化石燃料の使用をできるだけ効率化し、コストを下げる動きが加速し、エネルギーの供給過剰が起きていた。20年春までの下落は脱炭素化が影響している。その後、OPECプラスによる需給のリバランスが進んで価格は持ち直したが、今度はウクライナ侵攻による危機でも容易に大幅増産には動かない。「増産のカギを握るサウジアラビアも、人権・民主主義重視の米バイデン政権との関係がギクシャクしている。市場ではロシア産原油の買い控えが起きているが、それに同調しない中国とインドの対応も焦点になる」と小山専務理事は言う。

 エネルギー安保強化のために西側は、原子力や再エネと化石燃料などでの従来のエネルギーミックスの変更や原油・LNG(液化天然ガス)の供給源分散化などを進める。日本はロシア産原油などへの依存度こそ低いものの、エネルギー自給率が11%は主要国では図抜けて低く、エネルギー危機時には大きな影響を受けやすいだけに安閑とはできない。小山専務理事は、「ウクライナ危機を巡る地政学リスクが残るが、エネルギーの大規模供給支障などが起きない場合は、原油価格は100ドル前後プラスマイナス20ドル程度の粗い値動きになる」と予想する。しかし、「相当規模の供給途絶が発生すれば、原油・天然ガスとも過去最高値を一気に、大幅に更新する」とも見る。ウクライナ侵攻がもたらす危機は、これからが本番なのかもしれない。


ゲスト / Guest

  • 小山堅 / Ken Koyama

    日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員 / PhD Senior Managing Director, Chief Economist The Institute of Energy Economics

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:5

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