2022年03月10日 15:30 〜 17:00 9階会見場
「ウクライナ」(3) 角茂樹・元駐ウクライナ大使

会見メモ

2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻してから2週間。2014年10月から2019年1月までの4年あまり駐ウクライナ大使を務めた角茂樹さんが、ウクライナの歴史、正教会との関係なども踏まえ現状を分析した。

角さんはウクライナの国旗の色である青と黄色のネクタイを身に着け登壇。「ウクライナに栄光あれ」と揮毫した。

 

司会 大内佐紀 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

 


会見リポート

プーチン氏の誤った野望

松島 芳彦 (共同通信社編集委員兼論説委員)

 ウクライナ侵攻に踏み切ったロシアのプーチン大統領は、首都キエフを2日か3日で制圧できると踏んでいたらしい。だがウクライナは軍だけでなく一般市民までが団結して、圧倒的な物量を誇る敵に頑強に抵抗している。角さんは、元ウクライナ大使としてつぶさに見てきた現地の変化と国民感情を踏まえ、その理由を解き明かし「ウクライナ国民は一致して最後まで戦うだろう」と熱く語った。

 2014年にロシアがクリミア半島を併合した際、なすすべもなかったウクライナは、今度もひとたまりもないだろうと言われた。だが角さんによれば、クリミア併合とロシアが介入した東部紛争を経て国民感情は大きく変わった。特に東部紛争では「兄弟国」であるはずのロシアのせいで、約一万人が死亡、数十万人が避難民となり「ウクライナ人のロシア離れが決定的になった」という。

 従来はロシア寄りの東部と、欧州寄りの西部による東西対立が、ウクライナの国情を不安定にしてきた。しかし、大統領選挙もゼレンスキー氏が勝利した19年には、従来の「東」対「西」という構図が崩れた。同氏は東でも西でもおおむね支持を得た。14年当時、ロシアとのビジネスは全体の25%だったが、今は7%にすぎず、経済でもロシア離れが進んでいる。

 このような現実を踏まえれば「プーチン氏は全く間違った願望と思想で行動している。キエフが陥落しても戦いは終わらない」との見方には説得力がある。

 ロシアは停戦条件として、ウクライナの「非軍事化」と「中立化」を要求している。角さんによれば、NATOに加盟するかどうかという形式ではなく、経済で欧州連合(EU)と、軍事で米国と接近する実態がプーチン氏には我慢ならない。だがNATOとEUへの加盟が既に「ウクライナのアイデンティティー」であるのなら、プーチン氏の野望は簡単には成就しそうもない。

 


ゲスト / Guest

  • 角茂樹 / Shigeki Sumi

    元駐ウクライナ大使 / former Ambassador of Japan to Ukraine

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:3

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