2022年03月30日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「3.11から11年」(5) 開沼博・東京大学大学院准教授、関谷直也・東京大学大学院准教授

会見メモ

政府は東京電力福島第一原子力発電所で生じる処理水を2023年春にも海洋放出する方針を決めている。

福島第一原発事故の被災地である福島の復興政策や風評被害研究・対策に携わってきた東京大学大学院准教授の開沼博さん(写真左)、関谷直也さんが、処理水の海洋放出問題への対応を中心に、事故から11年を経た「福島のいま」について話した。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

 

 


会見リポート

変化してきた県内世論

小川 明 (共同通信社客員論説委員)

 東京電力福島第一原発事故から11年が経過し、タンクに大量に保管される処理水の海洋放出は差し迫る課題といえる。風評被害が悩ましい。福島に詳しい社会学者の開沼博さんは風評メカニズム精査と「政治が前面に立つ」よう求めた。福島民報が昨年11月に公表した県民世論調査結果を基に、処理水海洋放出について全体では反対がやや多いが、30代以下では賛成が上回ったことを指摘し、賛成がこの数年増えた県内世論の変化に注目した。

 県内の自治体で処理水海洋放出の決定を最も求めてきたのは福島第一原発がある大熊町と双葉町だ。開沼さんは「地元の懸念の中心は処理水の危険性より、風評、偏見・差別、経済的損失の拡大にある」と話した。県外からの偏見は根強く、風評がメディアで再生産される側面に言及した。次いで原発事故処理の全体像に触れ、課題として諸事業の総仕上げ、放射性物質検査・測定の縮小、産業育成などを挙げ、「すべてで最後の状態が見えにくい」と批判した。

 災害情報論と社会心理学が専門の関谷直也さんは自らの調査で「福島県産食品への不安が確実に減っている」と報告した。その傾向は県外より県内で顕著だった。処理水が海洋放出される場合の福島県産海産物については2019年の調査と対照的に21年は県内で「購入したい」が「購入したくない」を上回ったが、県外では大きな変化がなかった。放射性物質の健康影響でリテラシーが高まる県内と県外で認識の違いが広がった。海洋放出に反対する漁民の理解を深めるには「海産物の消費や流通を支えることが重要」と提言した。

 新潟県出身の関谷さんは同じ東京電力の柏崎刈羽原発に関する新潟県の検証委員会に関わってきた。柏崎刈羽原発では昨年から安全対策不備や核物質防護機能の長期喪失などが相次いだ。もう一つの東電問題と捉えて「原子力防災対策は福島原発事故から11年経過しても進んでいない。事故・災害・復興の検証が不足している」と語った。


ゲスト / Guest

  • 開沼博 / KAINUMA Hiroshi

    東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授 / associate professor, Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, Tokyo University

  • 関谷直也 / SEKIYA Naoya

    東京大学大学院情報学環附属総合防災情報研究センター准教授 / associate professor, Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, Tokyo University

研究テーマ:3.11から11年

研究会回数:5

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