2022年03月02日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「ウクライナ」(1) 廣瀬陽子・慶応義塾大学教授

会見メモ

コーカサスを中心とする旧ソ連、ロシア政治を専門とする慶應義塾大学の廣瀬陽子教授が、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の背景や意図、今後想定される展開などについて話した。

著書に『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書 2021年)などがある。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

プーチン政権崩壊もありうる

二村 伸 (NHK解説委員)

「ウクライナへの侵攻はプーチン大統領の恨みと被害者意識が背景にある」「トップが変わらない限りロシアの未来はない」。廣瀬教授は知りたいことに大胆かつ明快に答えた。

プーチン外交の根幹は勢力圏の維持であり、もっとも重要な旧ソ連諸国に西側の影響力がおよばないようにこれまでハイブリッド戦争をしかけてきた。そのツールの1つが、ジョージア、アゼルバイジャン、モルドバ、ウクライナにおけるロシアの傀儡「未承認国家」であり、独立させずに揺さぶりをかけて不安定化させ、NATOEU加盟を阻止することが本来の目的だったが、今回ウクライナ東部2州の独立を承認し侵攻までしたことは、「ロシアに何のメリットもなく、合理的に説明できない」という。『ハイブリッド戦争』等の著者である旧ソ連地域の専門家でも「侵攻はないと見ていた」と驚きを隠せず、「プーチン大統領の行動には合理性が微塵も感じられない」と語った。

プーチン大統領の恨みの源泉は、旧東独の消滅だという。KGBの諜報員時代、目の前で国家が西側にのみ込まれたことが今回の侵攻の背景にあり、「感情論と被害妄想でしか考えられない」と説明する。ではなぜ今なのか。その答えは、東独での原体験に加えて去年ソビエト連邦解体30年を迎え、西側への憎悪の感情が増幅されたためではないかと見ている。米中二極化が進み存在感が低下したことの屈辱も背景にあるようだ。

プーチン大統領の誤算は、短期決戦ならなかったこと。最大のパートナーである中国の習近平国家主席の顔に泥を塗るようなことのないように北京五輪とパラリンピックの間に戦勝国としてウクライナに要求をのませたかったはずだという。西側ができることは限られているが、制裁の影響は大きく「国民の不満が強まりソ連のように自滅する可能性もゼロではない」。ロシアを知る人だからこその発言だろう。

 


ゲスト / Guest

  • 廣瀬陽子 / HIROSE Yoko

    慶応義塾大学教授 / professor, Keio University

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:1

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