会見リポート
2021年11月10日
16:00 〜 17:30
10階ホール
「サイバー社会」(5) 若江雅子・読売新聞編集委員
会見メモ
若江雅子・読売新聞編集委員は2008年からIT問題を担当、今年「膨張GAFAとの闘い デジタル敗戦 霞が関は何をしたのか」(中公新書ラクレ)を出版した。GAFAが日本で行ってきたビジネスの問題点や、それに対する規制の動きについて話した。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)
会見リポート
「新たな統治者」を実例で解く
赤田 康和 (朝日新聞社社会部)
いま、私たちの生活にはIT企業の無料サービスが深く浸透している。消費者のプライバシーなど権利が侵害されないよう、サービスを提供するGAFAなどの巨大企業をどうやってコントロールしていけばよいのか――。この深くて大きな問題について、若江氏は、ヤフーによる広告をめぐる事例から話を始めた。
2012年、ヤフーがヤフーメールにユーザーの興味や関心に合わせた広告を表示させようとしたところ、「通信の秘密の侵害になるのでは」といった問題が浮上し、総務省から事情を聴かれる事態になった。
だが、同種のサービスを始めていたグーグルを政府は規制できていなかった。理由はサーバーが国外にあるためだ。ヤフーにだけ規制をすれば「一国二制度になる」とヤフー側が反発。結局、総務省は12年9月、ヤフーの広告を容認した。海外事業者へのコントロールが及ばないために、結果的に規制が緩み、消費者にとっては「通信の秘密の保護水準」が引き下げられる事態に陥った。
個人がさまざまなブラウザにアクセスした履歴が、クッキーを使った名寄せによって、個人のプロファイリングにつながりうる問題や、検索エンジン市場をめぐるグーグルによる寡占の問題など、我々の権利を侵しかねない事例は多数ある。
トランプ前大統領のアカウントが停止された問題では、支持者ら7万人以上のアカウントが凍結され、右派系SNSの「パーラー」がグーグルやアップルによりアプリストアから削除された。突如、1200万人のユーザーがネット上での居場所を失った。
プラットフォーマーは「新たな統治者」として、国家をしのぐ力を持ち始めている。
若江氏はGAFA問題の見取り図を分かりやすく描き出した。我々ジャーナリストは、GAFAという新たな権力とどう向き合ったらいいのか。難しい問いを突きつけられていることが改めて分かった。
ゲスト / Guest
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若江雅子
読売新聞社編集委員
研究テーマ:サイバー社会
研究会回数:5