2021年09月22日 13:30 〜 15:00 オンライン開催
「新・国際課税ルール」(6) 太田洋・弁護士

会見メモ

租税法、会社法、M&Aなどが専門の弁護士の太田洋氏が、新たな国際課税ルールが国際的な租税競争と企業経営に与える影響や残された課題などについて話した。

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

課税制度、後れる日本へ警鐘

赤穂 啓子 (日刊工業新聞社論説副委員長)

 M&A実務で著名な太田氏が、新たな国際課税が日本企業に及ぼす影響について語った。海外巨大企業が駆使する課税逃れの手法を見てきただけに、課税制度で後れをとる日本への警鐘が込められていた。

 法人税に15%の最低税率を導入する点について、税軽減で企業を呼び込む「底辺の競争」に歯止めをかけ、各国政府が公共サービスの原資を得るもので「基本的に高く評価できる」とした。ただ、各国には日本にはない税負担軽減措置や損金算入支払い制限ルールがあり、結果として日本は海外企業の誘致で魅力が乏しく、日本企業は海外で多額の税負担が発生しているという。

 もう一つの柱である多国籍企業への公平な課税は、当初の巨大IT企業を想定したものが、米国への政治配慮から、売上高200億ユーロ以上で利益率10%超の多国籍企業約100社の課税へとルールが変わった。「日本のトヨタ自動車やソニー、通信事業者などが含まれる可能性がある」と指摘した。製造業であるトヨタやソニーにとっては巻き添えとも言える状況だ。

 試算ではこの制度で、日本は約15億ドル(1600億円)の税収効果があり、米国は100億ドル(1・1兆円)の税収減となる。米国の条約承認には上院議員3分の2の同意が必要で「実現は予断を許さない」と厳しい見通しを示した。

 太田氏は多国籍企業への課税ルールが実現しない場合の代替案として「デジタルサービス税を検討すべき」と提案した。すでに世界35カ国が同税を導入または検討中で、日本とドイツが残されている。

 総じて日本は諸外国に比べ法人関連税制が未整備で消費税の益税問題など課題が多い。国際巨大企業から十分な税収が得られず、日本企業は海外で多額の税支払いを強いられている。「国益の観点から問題」という太田氏の指摘に同意したい。


ゲスト / Guest

  • 太田洋 / Yo Ota

    弁護士

研究テーマ:新・国際課税ルール

研究会回数:6

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