2021年08月16日 13:30 〜 15:00 オンライン開催
「新・国際課税ルール」(1) 田近栄治・一橋大学名誉教授

会見メモ

7月10日、G20の財務相・中央銀行総裁会議が、巨大IT企業などの多国籍企業の「課税逃れ」を防ぐ新たな国際課税ルールで大枠合意に達した。研究会「新・国際課税ルール」では、10月の最終合意に向けて残された課題や各国経済に与える影響について、税制や財政、国際経済などの専門家を招き、考察する。

 

 第1回ゲストとして、前国税庁国税審議会会長で経済産業省「デジタル経済下における国際課税研究会」の座長を務める田近栄治・一橋大学名誉教授が登壇した。

デジタル企業と無形資産にどう課税するのかという課題に対し、OECD/G20包括的枠組みが出した答えを解説、評価するとともに、日本は今後どう対応すべきなのかなどについて話した。

 

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

デジタル課税の本旨はどこに

小竹 洋之 (企画委員 日本経済新聞社上級論説委員)

 国際的な法人課税の改革に向け、およそ130の国・地域が7月に大枠合意に達した。巨大なIT(情報技術)企業を念頭に置いたデジタル課税のルール整備や、各国・地域が課す法人税の最低税率の導入などが柱で、10月の最終合意を目指す。

 物理的な拠点の有無を重視する企業課税は、時代遅れになりつつある。経済の活性化を狙った法人税率の引き下げ競争は、行き過ぎの弊害が目立つ。多国籍企業の課税逃れや各国・地域の税源の浸食を、看過することはできない。国際社会が立場の違いを乗り越え、デジタル化やグローバル化の時代に即した税制改革に協力する意義は大きい。

 本シリーズ企画「新・国際課税ルール」は、歴史的ともいわれる合意の内容を検証するために始めた。トップバッターの田近氏は「デジタル企業と無形資産にどう課税するか」が本質的な問題だとみる。

 にもかかわらず大規模な多国籍企業全般をデジタル課税の対象とし、拠点の有無に関係なく一定の税源を市場国・地域に配分するのは、本来の趣旨からそれてしまっているのではないか。こうした指摘には確かにうなずけるところがあった。

 少なくとも15%とする法人税の最低税率にも、適用条件や実効性などの問題が残るという。産みの苦しみはまだ続くとみた方がいい。

 米国は国内の大手IT企業が狙い撃ちにされるデジタル課税を避けたかった。他方で自国の法人税率を引き上げても不利にならないように、世界共通の最低税率を求めた。超大国の思惑がいまの合意に反映しているのは公然の秘密だろう。

 田近氏はこれを「エレファント・イン・ザ・ルーム」と評した。わかっていてもあえて触れないタブーを意味する。日本も国際社会の冷徹なパワーゲームに参画せざるを得まい。今後も税財政の専門家を招き、あるべき改革を探りたい。


ゲスト / Guest

  • 田近栄治

    一橋大学名誉教授

研究テーマ:新・国際課税ルール

研究会回数:1

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