会見リポート
2021年07月19日
13:00 〜 14:30
オンライン開催
「イスラエル政権交代の影響」鈴木啓之・東京大学特任准教授
会見メモ
東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授が登壇し、イスラエルにおける12年ぶりの政権交代が米国の中東政策や他の中東諸国にどのような影響を与えるのか、反ネタニヤフ連合が成立した背景や連立政権の行方などについて話した。
鈴木さんは1987年生まれ、著書に、1987年に起きたパレスチナの民衆蜂起を分析した『蜂起<インディファーダ>』(2020年3月 東京大学出版会)がある。
司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)
会見リポート
イラン核問題で対米依存/アラブ諸国関係に注目
船津 靖 (共同通信出身)
東京大学の鈴木啓之特任准教授は「九州より小さい」イスラエルが注目される理由として開口一番「紛争の当事国、日本と類似した強固な対米同盟関係、ハイテク産業」の3点を挙げた。イスラエルの話題はかつて中東紛争がほとんど。主流のアラブ研究者は「反米・反シオニスト」系の主張が目立った。語り口に新鮮な印象を受けた。鈴木さんはインティファーダ(反イスラエル闘争)が始まった1987年の生まれだ。
12年ぶりの新首相が率いるベネット政権はアラブ系を含む8政党の連立でぎりぎり過半数に届いた。インティファーダの研究で知られるアラブ専門家が新型コロナウイルス対策を含め最新情勢を分析した。イラン核問題は、人権重視のバイデン政権に配慮する必要からイスラエル単独の実力行使は難しくなり、対米依存が高まると予測。連立政権の行方は当面、予算の成立しだい。仮にまた総選挙になっても政権交代を主導した中道派ラピド外相に有利とみる。パレスチナ和平は動かないが、対アラブ諸国では「大きな変化」の可能性に注目する。アラブ首長国連邦(UAE)の在イスラエル大使館設置、ベネット首相とヨルダンのアブドラ国王の秘密会談、ガザ地区に復興資金を提供する湾岸カタールとの交渉などが例示された。
ベネット首相はネタニヤフ氏と同じ特殊部隊の出身だ。前首相の崇拝者だった時期もある。今回の政権交代は「父殺し」のドラマ性もあった。私はネタニヤフ前首相、陰の実力者サラ夫人、入植者の義弟にインタビューしたことがあるが、今回の主役交代で完全に過去のものとなった。
今年5月のハマスとイスラエルの戦闘後、ガザでハマス支持が強まったとする報道に言及があった。ガザを長年取材してきた土井敏邦氏がハマスの強権支配、無謀なロケット攻撃への住民の怒りや絶望も報じていることを付記しておく。現地からの一層の報道や分析に期待したい。
ゲスト / Guest
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鈴木啓之 / Hiroyuki Suzuki
東京大学スルタン・カブース・グローバル中東研究寄付講座特任准教授 / Project Associate Professor, The Sultan Qaboos Chair in Middle Eastern Studies, The University of Tokyo
研究テーマ:イスラエル政権交代の影響