2021年07月16日 14:00 〜 15:30 オンライン開催
「官僚と政治」(3) 前川喜平・元文部科学事務次官

会見メモ

シリーズ「官僚と政治」の第3回ゲストとして、前川喜平・元文部科学事務次官が登壇した。

2014年に設置された内閣人事局については「発想自体が悪いわけではない。使う人が悪かった」とし、第2次安倍政権以降、政権と官僚の関係が変化したと指摘した。

前川さんは初等中等教育局長、文部科学審議官(文教担当)などを経て2016年6月に事務次官就任。2017年1月に発覚した文部科学省天下りあっせん事件を受けて辞職した後、現代教育行政研究会を立ち上げ、代表を務めている。

 

司会 坪井ゆづる 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

統治機構の根腐れは人事から/各省の自律性・公益通報の場を

豊田 洋一 (東京新聞論説主幹)

 政権の枢要にある事務次官経験者でありながら、今や、安倍晋三、菅義偉という新旧両政権に警鐘を鳴らし続ける代表格ではなかろうか。

 官僚と政治との間合いは、日本に官僚制度が生まれた明治期以降、常に問題となってきた課題である。

 かつて官僚が政策決定の主導権を握った「官僚主導」の政治は高度成長の終わりとともに限界に達し、国民に選ばれた政治家による「政治主導」への転換は必然だった。

 前川氏は「政治主導は正しい」と断言する。同時に「政治家は票とカネが行動原理。票やカネにならない少数者は無視されがち」であり、選挙のない官僚こそが少数者のことを考え、憲法が定める全体の奉仕者にふさわしい、との自負ものぞく。

 前川氏が指摘するように、「政治家と官僚には緊張関係が存在しないといけない」のだが、この関係を一変させたのが「アベスガ」であることは衆目一致するところだろう。

 前川氏の言をまつまでもなく、第二次安倍政権以降、政権中枢である首相官邸への権力集中が進んだ。官邸主導は官僚の萎縮を招き、官僚と政治との関係にも変容を迫った。

 官僚が官邸の意向を忖度し、ついに財務官僚が公文書の改ざんにまで手を染める。筆者自身が「統治機構の根腐れ」と呼ぶ状況に至った元凶が「官房長官の言うことを聞く人が登用される」内閣人事局制度であることに異存はない。

 前川氏はさらに矛先を、制度の運用者だった菅氏と、杉田和博官房副長官に鋭く向ける。

 異常な官邸主導を改める処方箋として、前川氏は「公務員人事に関する各省の自律性を取り戻す」「行政の間違いを公益通報できる場を国会の下に置く」ことを挙げた。

 前川氏がなぜ在職中、反旗ののろしを上げられなかったのかとの思いを抱きつつ、渦中に身を置いた者ならではの提言と受け止めたい。


ゲスト / Guest

  • 前川喜平 / Kihei Maekawa

    元文部科学事務次官 / Former Vice Minister of Education, Culture, Sports, Science and Technology

研究テーマ:官僚と政治

研究会回数:3

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