2021年07月09日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「アデュカヌマブとこれからの認知症治療」

会見メモ

米バイオジェン社とエーザイが開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」が6月7日、米食品医薬品局(FDA)に承認された。日本では2020年12月に承認申請が出されている。

認知症、アルツハイマー治療の第一人者である岩坪威・東京大学教授(写真=左から1枚目)、東京都健康長寿医療センター研究所の粟田主一副所長(同2枚目)が登壇。岩坪さんは、これまでの薬との違いなども含め病理学の観点からアデュカヌマブについて解説、粟田さんは臨床の現場の立場から現状や課題などについて話した。

また「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事(同3枚目)がオンラインで参加し、当事者・家族の立場からコメントした。

 

司会 猪熊律子 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

米で新タイプの治療薬承認/多様な受け止め、3者語る

辻 外記子 (朝日新聞社編集委員)

 アルツハイマー病の治療薬として米国で6月、条件付きで承認された「アデュカヌマブ」。進行を抑える新しいタイプの薬と期待を集め、日本での承認の行方も注目される。研究者、臨床医、患者・家族の立場から、今回の承認や今後の治療をどう考えるかが語られた。

 岩坪威・東京大学教授は、アミロイドβやタウというたんぱく質が脳にたまる病態や、アリセプトなど従来の治療薬とアデュカヌマブの違いを説明。脳に起きる変化の進行を抑える「疾患修飾薬」と呼ばれるこのタイプの薬の開発状況も語った。140以上の治験が失敗し、初承認となったアデュカヌマブについて、「一言でいえば画期的」。今後は物忘れなどの症状が出る前の超早期治療の実現が目標になるとした。

 粟田主一・東京都健康長寿医療センター研究所副所長は、承認以来、「いつから使えるのか」「効果はどれくらい?」と患者や家族からこの薬への質問が増え、関心の高さを実感していると話した。ただし、治療対象となるのはアミロイドβの蓄積が確認された初期のアルツハイマー病で、現在アルツハイマー病である人の大部分は治療対象にならない可能性が高いとし、「誤った認識を助長しないよう丁寧に伝えていきたい」。蓄積を確認する検査ができる施設が少なく検査の保険収載がまだといった課題もあげた。将来的には、遺伝性の若年性アルツハイマー病など一部の患者に高い効果を発揮する可能性も述べた。

 鈴木森夫・認知症の人と家族の会代表理事は「承認は『新たな扉を開く希望の光』と言える。ただし、長く妻を介護する男性から『うちの妻には使えないんでしょうね』と聞かれるなど、多様な受け止めが広がっている」と話した。「治療薬というより予防薬に近いのでは」とも語り「冷静にとらえ、病と共生できるよう活動を続けていく」とまとめた。


ゲスト / Guest

  • 岩坪威

    東京大学教授

  • 粟田主一

    東京都健康長寿医療センター研究所副所長、認知症未来社会創造センター センター長

  • 鈴木森夫

    「認知症の人と家族の会」代表理事

研究テーマ:アデュカヌマブとこれからの認知症治療

ページのTOPへ