会見リポート
2021年06月14日
16:00 〜 17:00
オンライン開催
「TOKYO2020+1」(4) 為末大・元陸上選手(男子400メートル障害日本記録保持者)
会見メモ
陸上男子400㍍障害の世界選手権銅メダリストであり、五輪に3度出場した為末大さんが登壇し、コロナ禍での開催の意義、開催の是非を巡る議論の矛先がアスリートに向かうことへの思いなどについて話した。
為末さんは、開催の是非については「判断がつかない状態」とした上で、開催された場合の意義について、「社会が分断される中で『私たち』という枠組みを思い起こすきっかけになるのではないか」と語った。
司会 森田景史 日本記者クラブ企画委員(産経新聞)
会見リポート
開催の意義、対話進まず/答え出し切れぬスポーツ界
平野 和彦 (読売新聞大阪本社編集局運動部)
開催を巡って揺れる東京五輪・パラリンピックについて、陸上・男子400㍍障害の日本代表として五輪に3度出場した為末大さんが登壇。元アスリートとして開催を願いながらも、「社会に負担を強いている状況。世界的に見ても、日本人は五輪が大好きだが、その感情が離れてしまうのでは」との懸念を示した。
オリパラ開催による新型コロナウイルスの感染拡大を危惧する声は根強い。為末さんは開催の意義が浸透しなかった点を指摘。「何のためにリスクを取り、何が得られるのか。時間をかけて社会と対話すべきだったが、自分も含め、スポーツ界が答えを出し切れなかった」と述べた。
国際オリンピック委員会(IOC)と開催都市の関係性や商業主義の肥大化も溝が深まっている一因。為末さんは「理念達成のためのビジネスではなく、ビジネスのために理念を掲げているのではという疑いが生じている。その検証は必要」と訴える。
一方、世界では価値観の違いによる社会の分断も起きている。為末さんは「オリパラは国籍や人種を乗り越え、『私たち』という枠組みを思い起こすきっかけになる」と強調。象徴的な例として挙げたのが2000年シドニー五輪だ。女子400㍍で、豪州の先住民族アボリジニであるキャシー・フリーマン選手が金メダルに輝くと、世界中が快挙をたたえ、人類融和を促す機会にもなった。
ワクチンの普及や試合の開催状況などで選手間の調整にも差があるとみられ、為末さんも「公平性を保つのは難しい」と認める。ただ、オリパラ本来の役割はメダル数を競うことではなく、限界に挑む選手の姿に世界の人々が感動し、相互理解を深めること。為末さんはその原点回帰に意義を見いだすとともに、「昭和の成功体験を継続するのが難しいのであれば、新しい形に変わらないといけない。その境目に今回の東京オリパラはある」と変革の必要性に言及した。
ゲスト / Guest
-
為末大 / Dai Tamesue
元陸上選手(男子400メートル障害世界選手権銅メダリスト、五輪代表)
研究テーマ:TOKYO2020+1
研究会回数:4