2021年06月15日 14:00 〜 15:30 オンライン開催
「新型コロナウイルス」(66) コロナ後の社会 山本太郎・長崎大学教授

会見メモ

長崎大学教授で同大学熱帯医学研究所国際保健学分野主任の山本太郎さんが登壇し、「With コロナ時代の見取り図」と題し、人類と感染症の歴史、21世紀の公衆衛生学的課題などについて話した。

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

「共生の概念見直す生き方を」

小岩井 忠道 (共同通信出身)

 コレラ大流行を伴ったハイチ大地震(2010年)、エボラ出血熱大流行(コンゴ、2019年)など内外での豊富な支援活動と、感染症と人類との長い関わりに対する深い知見に裏打ちされた言葉が続いた。中でも感染症対策をはじめウイルスや他の生物との共生を重視した新たな生き方が求められている、とする提言が心に残る。

 欧州の人口の4分の1から3分の1が失われたとされる中世のペスト流行。一方、アマゾン先住民やフェロー諸島での研究から分かった数百~数千人という小規模集団では急性感染症は流行しないという事実。恒常的流行を可能にしたのは農耕・定住化と野生動物の家畜化。さらにこの50年ほどの間に生態系変化や気候変動などで増えた野生動物に起因する新たな感染症。こうした事実を挙げ、新型コロナウイルス感染拡大を「人間と自然の在り方を考え直すきっかけとすべきだ」と提言した。

 宿主であるヒトに病気を起こすウイルスはウイルス全体のごくわずか。むしろウイルスによって恩恵を受けていることも多い。異物を排除しようとする母親の免疫作用から胎児を守っている哺乳類の胎盤はウイルス由来。ヒトの身体には100兆個の微生物がすみつき、ヒトの健康や環境適応に何らかの役割を演じている可能性がある。こうした事実も紹介し、コロナ禍に対して各国の指導者などから数多く聞かれた「ウイルスとの戦いに勝利する」という考え方を改める必要を訴えた。

 公衆衛生をはじめこれからの生き方において念頭に置くべきだとしたのが「共生」の概念。「ウイルスや他の生物と共生せずに生きることはできない。自分と違うものを排除するのではなく包摂した社会をどうつくるかが問われている」「同じ場所で交わっているのではなく、お互いにテリトリーを尊重しながら、それぞれの場所で生き続けるのが共生」。コロナ禍を機に今の生き方を考え直すことを求めた提言が続いた。


ゲスト / Guest

  • 山本太郎 / Taro Yamamoto

    長崎大学熱帯医学研究所教授 / Professor, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University

研究テーマ:新型コロナウイルス

研究会回数:66

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