2021年06月29日 17:00 〜 19:00 10階ホール
2021年度日本記者クラブ賞受賞記念講演会

会見メモ

2021年度日本記者クラブ賞受賞者の大久保真紀さん(朝日新聞)、杉田弘毅さん(共同通信)が印象に残る取材や報道にかける思いを語った。

大久保さんは、中国残留日本人、虐待児童、遺伝性難病患者など様々な社会的弱者を長期にわたり取材、記事や著作で伝えてきた。 杉田さんは約11年間に及ぶ米国特派員経験を持ちつつ、米国にとどまることなく、複眼的な視点で世界情勢を分析した記事、著作を執筆。日本の国際報道をけん引してきた。

 

司会 江木慎吾 日本記者クラブ専務理事兼事務局長

YouTube会見動画

会見詳録


会見リポート

クラブ賞 大久保真紀さん

■思いを託された4つの出会い

 社会的弱者の「声なき声」に粘り強く耳を傾けてきた大久保真紀さん。「市井には無名だが、書き残しておきたい人生がある」。34年間の記者生活の中で、取材姿勢につながる4つの出会いを披露してくれた。

 1993年、中国残留婦人・孤児12人の強行帰国を取材した。報道を機に社会が動き、半年後には帰国促進・自立支援法が公布された。「目の前の出来事の意味が分からないと記事にできない。普段からの勉強、価値判断の大切さを教えてくれた」と振り返る。

 売春宿から救出されたミャンマーの少女は涙ながらに「私のような思いをする人を減らしてほしい」と訴えた。「伝えることを託された」と強く感じた。

 信条である「限りなく近く、しかし同化せず」を意識した原点は、虐待を受けた少女の取材だった。恋人に暴力を振るわれ助けを求められた際、支援者からも「自宅に連れて帰ってくれないか」と頼まれた。迷った末に断り、他の支援施設を紹介した。

 「記者は当事者、利害関係者、支援者にはなれない。読者や社会への責任を果たすためにも、取材相手との距離の取り方は気を付けている」と明かした。

 遺伝性難病患者を長年支援してきた女性からは励ましをもらった。「苦情が来るぐらいでないと、真実を書いてはいないということ」。この言葉を仕事の基本にしているという大久保さん。日々の出会いに感謝した上で、さらなる精進を誓っていた。

下野新聞社東京支社報道部 石﨑 倫子

 

クラブ賞 杉田弘毅さん

■報道への鋭利で新鮮な挑戦

 日本の国際報道を長年、けん引した実績で栄えある日本記者クラブ賞を受けての記念講演とあれば、俯瞰や回顧が主体の、やや上からの余裕ある話かと予測していたら大違いだった。

 杉田氏の講演は報道の今そのものから世界の価値観まで既成の実態への鋭利で新鮮なチャレンジに満ちていた。

 同氏はまず12年を過ごしたアメリカでの報道体験を基礎に、アメリカの主要メディアへの日本側の年来の礼賛を批判した。日本では神話のように絶賛されたウォーターゲート事件報道さえもメディアは権力の一方に身を寄せるような「当事者」だったのだという。

 至近の話題では新型コロナウイルスの発生源をめぐる論議についても杉田氏は「アメリカのメディアはバイデン大統領が述べたことは事実、トランプ陣営の主張は事実でない、として単に扱い、情報の中身の検証はしない」と厳しかった。党派性や偏向に対する鋭い指摘であり、それに追随する日本の国際報道への警告だった。

 杉田氏はアメリカの民主主義、個人の自由、平等などという普遍的とされる「価値観」にも疑問を提起した。日本はアメリカと同盟を結んでいても、その価値観にすべて同意する必要はないという大胆な主張だった。アメリカへの複眼的で重層的な姿勢だといえよう。

 触発され、刺激される熱のこもった講演だった。杉田さん、ありがとう。そして改めて受賞、おめでとう。

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、93年度クラブ賞受賞 古森 義久


ゲスト / Guest

  • 大久保真紀 / Maki Okubo

    朝日新聞編集委員

  • 杉田弘毅 / Hiroki Sugita

    共同通信特別編集委員兼論説委員

研究テーマ:日本記者クラブ賞受賞記念講演会

ページのTOPへ