2021年04月23日 11:00 〜 12:00 10階ホール
「新型コロナウイルス」(60) コロナ危機下の舞台芸術 岡室美奈子・早稲田大学演劇博物館館長、児玉竜一・早稲田大学演劇博物館副館長

会見メモ

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、舞台芸術分野についても厳しい状況が続いている。一方で過去の上演作品を一元的に保管・検索できるデジタルアーカイブを構築するといった新たな動きも進んでいる。

早稲田大学演劇博物館館長の岡室美奈子氏(写真左)、同副館長の児玉竜一氏が登壇し、コロナ危機下の伝統芸能、現代演劇の現状、同館が構築した舞台公演や情報についての検索サイト「JAPAN DIGITAL THEATRE  ARCHIVES」について話した。

司会 中村正子 日本記者クラブ企画委員(時事通信)

 

「JAPAN DIGITAL THEATRE  ARCHIVES」

 


会見リポート

ハイブリッド舞台見据えて

井上 秀樹 (朝日新聞社文化くらし報道部)

 舞台芸術はコロナ禍で空前の危機に直面する。いまも欧米の劇場は閉じたままだ。国内演劇界も上演がたびたび中止される。直面する問題と将来の展望を大学教授が述べた。

 歌舞伎が専門の児玉竜一さん(右)は、伝統芸能について「これまで起きていた事態に目を向けざるを得なかった」と指摘した。たとえば、三味線メーカーの最大手が廃業危機と騒がれたが、三味線の発注は昭和40年代から減り続けていた。能はレッスンプロで収入を得ている能楽師が多いのが実情で、対面で教えられない状況が長引くほど芸の継承に影響を及ぼす可能性がある、などだ。

 ベケット研究の岡室美奈子さん(左)は、早稲田大学演劇博物館(演博)が取り組む舞台情報の検索サイトを紹介した。上演機会を失った劇団の収益を確保するほか、過去の公演映像を誰でも見られるよう「権利処理に踏み込んだ」のが特徴という。演博には6千~7千本の動画があるがニューヨークの図書館にはとても及ばず、拡充に公的支援が必要と訴えた。

 ライブ上演を矜持とする演劇人には、映像を活用することへの抵抗感がうかがえる。岡室さんの「劇場がメディアであるなら、劇場に代わる他のメディアを使うこともあり得るのでは」との提言は、舞台がデジタルとのハイブリッドを模索すべき時代が来ていることを見据えている。

 演劇がSNSなどで攻撃された不要不急論について、児玉さんは「演劇を含む文化芸術をどう位置づけるか」と課題を挙げ、かつては芝居が全国で上演されていた文化だったことを喚起した。

 演劇史の分析と舞台情報の保存活用、と2人の手段は異なるが、過去に何度も疫病禍をくぐり抜けた舞台芸術を信頼する姿勢は一致した。それは同じ演博の正副館長だから当然とも言え、話が重複することも。他大学の研究者が「共演」すれば、違う切り口を見せただろう。


ゲスト / Guest

  • 岡室美奈子 / Minako Okamuro

    早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長、早稲田大学文化構想学部教授

  • 児玉竜一 / Ryuichi Kodama

    早稲田大学坪内博士記念演劇博物館副館長、早稲田大学文学部教授

研究テーマ:新型コロナウイルス

研究会回数:60

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