2021年04月07日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「“アラブの春”から10年 中東のいま」酒井啓子・千葉大学教授

会見メモ

2010年12月のチュニジア革命からはじまった「アラブの春」といわれる民主化運動から10年が経つが、チュニジアを除くほとんどの国で、民主化プロセスはとん挫している。

中東・イラク政治を専門とする千葉大学教授の酒井啓子氏がリモートで会見し、失敗の原因と教訓、今後の展望などについて話した。

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

「春」から「冬」への悪循環続く/脱出には開発独裁による社会安定か

岡本 道郎 (読売新聞社調査研究本部研究員)

 2021年は中東節目の年だ。湾岸戦争から30年、9・11米同時テロから20年、そして民主化運動「アラブの春」から10年――。いずれも地域の運命を大きく変えた出来事だが、その中で、イラクを軸とした中東研究で著名な酒井教授が、「冬」と言われて久しく、10年を経ても出口の見えないアラブの「春」の実像と今後を鮮やかに解き明かしてくれた。

 2010年暮れのチュニジアの若き果物売りの焼身自殺に端を発し、11年以降、政権崩壊と内戦でアラブ世界を席巻した「春」の嵐。酒井氏はその要因を、民衆が「政権」にとどまらない国家「システム」の変化を求めたとし、失敗の理由を、運動体としてのコンセンサスの欠如、指導者の不在、社会の分断と分析。その上で、エジプトなどでの強権体制復活も踏まえて、「春」が「冬」へと巡る「悪しき循環モデル」を示した。

 社会経済状況の停滞・悪化で「春」が発生→「春」後の政権運営への民衆の不満が増幅→軍が政治介入→地域安定を目的に周辺国や大国が介入→内戦か、権威主義体制強化かに分岐→さらなる社会経済状況の悪化。そして、このサイクルの中で、軍が輸入、外国が輸出した武器が域内で大量に流通する――。悪循環を脱するには、「トップダウンの開発独裁による社会経済の安定確立しかないのかもしれない」との厳しい認識も。

 政権側の強権抑圧を「『春』以前にあった恐怖の壁の植え付け」と表現したのも印象的だ。まさに現在の香港、新疆ウイグル自治区、ミャンマーとグローバルに連なる権威主義陣営の新たな「壁」に他ならない。

 それでも、酒井氏が質疑で強調したのは、冬と言われながらも、「自分たちの声が届く国家システム」を希求するアラブ民衆の意思は確実に存在するということだ。求めた先の国家体制の最終形態を描けていない弱みに言及しつつも、遠い「春」を模索する芽吹きは感じさせてくれた。


ゲスト / Guest

  • 酒井啓子 / Keiko Sakai

    千葉大学教授 / professor, Chiba University

研究テーマ:“アラブの春”から10年 中東のいま

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