2021年04月28日 17:00 〜 18:00 オンライン開催
「アジア経済見通し2021年版」報告書会見 澤田康幸・アジア開発銀行(ADB)チーフエコノミスト

会見メモ

アジア開発銀行(ADB)が28日、2021年版の経済見通し報告書を発表した。アジア・太平洋における新型コロナウイルスの影響やグリーンファイナンスが果たす役割などについて分析したもの。ADBチーフエコノミストの澤田康幸さんがマニラからリモートで登壇し、報告書の概要などについて解説した。

司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

 


会見リポート

順調回復も下振れリスクあり

藤下 超 (NHK解説委員)

 新型コロナの影響で2020年に0.2%のマイナスとなったアジア開発途上国の成長率が21年にはプラス7.3%に回復する―ことしの「アジア経済見通し」は前向きな予測を打ち出したが、実際は今後のパンデミックの状況次第であり、国ごとのばらつきも大きい。

 けん引役は、やはり中国だ。好調な輸出や消費の拡大で8.1%の成長を予測している。他のアジア諸国が「3~5年」かかるとみられるコロナ禍前の成長軌道への復帰を、中国は来年にも達成できそうだという。米中対立がアジア経済に与える影響が懸念されるが、澤田氏は、「デカップリングは特定の分野で進む可能性はあるが、地域的な包括的経済連携(RCEP)の効果などで全体的には貿易は深化していき、復興が支えられる」とした。

 一方で、「非常に大きな不透明性がある」とも指摘し、最大の下振れリスクとして、ワクチン接種の遅れと変異ウイルスによる感染の再拡大をあげた。特にインドは、前年がマイナス8%だったこともあり、11%という高成長を予測しているが、いったん落ち着いていた感染がここにきて急拡大している。クーデターによる混乱が続くミャンマーについては、9.8%のマイナス成長とした。

 興味深かったのは、学校の閉鎖による経済的損失の分析だ。コロナで失われた学習時間の割合はアジア全体で29%、特に閉鎖が長期間続いた南アジアでは55%に上る。スキルの習得機会などが奪われ、青少年が失った生涯賃金は地域GDPの5%強に当たる1兆2500億ドルと推定されるという。澤田氏は、格差縮小につながる「より良い復興」の重要性を強調し、巨額の復興資金の調達には、近年急速に伸びているグリーンファイナンスの活用などを提案した。

 コロナ禍のいま、どうしても足元の景気に着目しがちだが、これからは将来を見通した新しい発想に基づく経済対策が必要だと改めて気づかせてくれた会見であった。

 


ゲスト / Guest

  • 澤田康幸 / Yasuyuki Sawada

    アジア開発銀行チーフエコノミスト / chief economist, Asian Development Bank (ADB)

研究テーマ:アジア経済見通し2021年版

ページのTOPへ