2021年01月12日 15:00 〜 16:00 オンライン開催
浅川雅嗣・アジア開発銀行総裁 会見

会見メモ

浅川雅嗣アジア開発銀行総裁が「アジア開発銀行の新型コロナウィルス感染症危機への対応」と題して話した。浅川氏は財務省財務官を退任後、内閣官房参与兼財務省顧問を経て2020年1月17日、第10代総裁に着任した。

司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

Asian Development Bank


会見リポート

ワクチン支援が当面の課題

上杉 素直 (日本経済新聞社コメンテーター)

 2020年1月というまさに新型コロナウイルスが広がり始めたタイミングでマニラのアジア開発銀行本部に赴任した。コロナ対応に明け暮れた総裁としての1年を独特の軽妙な語り口で伝えてくれた。

 アジアの多くの国々は2020年、観光客の激減や1次産品の値崩れでマイナス成長へ沈んだ。浅川氏は域内経済がコロナ以前の水準に戻るには「時間がかかる」と厳しい見立てを披露した。落ち込みの直後に急回復する「V字型」とはいかず、しばらく低迷が続く「U字型」をたどると覚悟している。

 打撃を受けた産業や生活に窮する人々を支え、保健分野を立て直す。喫緊の課題を乗り越えようとするアジア各国の財政支出は膨れ上がる。アジア開発銀行が乗り出したのは、各国政府の財政を直接支援するという新たな対応だった。前例のない危機に際して前例のない支援に取り組んだという説明に、力がこもった。

 当面のテーマは「ひたすらワクチン」。経済と社会の正常化の鍵を握るワクチンの普及をバックアップする準備を整えた。

 そして、その先の世界のイメージを巡って繰り返したのが「グローバリゼーションへの回帰」。米国と中国の対立などで滞るグローバリゼーションはいずれ必ず勢いを取り戻す。だからアジアの域内協力や統合のさらなる深化はコロナ後も重大事なのだと訴えた。社会の不平等や格差を踏まえた「人への投資」、グリーン・インフラ、デジタル化の推進といったテーマも掲げた。

 中国が主導して15年に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)はアジア開発銀行のライバルのようにみられがちだが、コロナ禍にあって両者の協調融資が何件も出てきたと殊更に強調していた。2つの機関の新しい連携や協力のモデルが浮かび上がってくるのなら、コロナがもたらす思わぬ副産物になるかもしれないと期待させた。


ゲスト / Guest

  • 浅川雅嗣 / Masatsugu Asakawa

    アジア開発銀行(ADB)総裁 / President, Asian Development Bank

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