2020年12月23日 13:30 〜 14:30 10階ホール
作家・柳美里氏 会見

会見メモ

小説「JR上野駅公園口」で全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した作家の柳美里さんが、執筆の経緯や本書に込めた思い、震災からまもなく10年を迎える福島・南相馬市の現状について話した。

柳さんは2015年に福島県南相馬市に移住、執筆活動とともにブックカフェ「フルハウス」を営んでいる。

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

YouTube会見動画

会見詳録


会見リポート

「私は内視鏡になりたい」

棚部 秀行 (毎日新聞社学芸部)

 昨年11月に全米図書賞の翻訳文学部門を受賞した福島県南相馬市在住の作家、柳美里さんが、創作の背景や、震災10年を前にした被災地の状況などについて語った。

 柳さんはまず、受賞時の地元の反応を話した。「想像以上に反響が大きかった。地元の人から『震災でつらいことばかりだったけど、うれしくて泣いた』と言われ、小説を書いていて良かったと思った」

 2011年4月、柳さんは南相馬市を訪問。翌年3月から地元の臨時災害放送局でラジオ番組を始め、約600人の話を聞いた。15年には同市に移住し、18年、ブックカフェ「フルハウス」を開いた。全米図書賞受賞作『JR上野駅公園口』は、住民との対話から生まれた物語だ。南相馬出身の男性が東京へ出稼ぎに出てホームレスになる。高度経済成長の影の部分に光を当てた。

 会見では次作の構想にも言及し、「南相馬でホームレスが増えている。除染作業の方には身寄りのない人もいる。引き取り手のない遺骨の話を書きたい」と述べた。また、「私が内視鏡になって、その人物の心の中を映したい」と小説家としての気構えも語った。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、被災地にも深刻な影響を与えている。人同士の接触を避けるため、さらに人とのつながりが断絶し、高齢者が多い中で医療体制も逼迫しているという。「今は(外から)来ていただいて、地元の人と話してほしいとは言えない。収束するまで思いを寄せていてほしい」と訴えた上で、「孤独死や自死が増え、コロナは社会構造の歪みや矛盾をあぶり出している。いつか収束するときは、この歪みを解きほぐし、編み直す社会につながればいい」と願った。開催が延期されている東京五輪について質問が及ぶと、「なぜこの時期か。被災地の状況を見てから決めてほしかった」と静かに憤った。


ゲスト / Guest

  • 柳美里 / Miri Yu

    作家 / Novelist

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