会見リポート
2021年01月27日
13:30 〜 15:00
オンライン開催
著者と語る『アルツハイマー征服』下山進氏
会見メモ
『勝負の分かれ目』『2050年のメディア』など、国内外のメディアを描いてきたノンフィクション作家の下山進氏が登壇。近著『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年1月8日)の執筆に至った経緯や、研究者の思い、科学ジャーナリズムのあり方などについて話した。
下山氏は「(研究・開発は)すべて人間がやっていること。研究者同士の嫉妬、競争心や捏造、人事左遷などがある中、アルツハイマー病を解明し、治療法を見つけたいという科学者、研究者の思いが積み重なり、現在の進歩に至った」と説明。
「この物語は未完だが、アルツハイマー病の苦しみが過去のものになることを願っている」と会見を締めくくった。
司会 猪熊律子 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)
『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年1月8日)
会見リポート
アルツハイマー巡る「人間ドラマ」凝縮/18年前からの取材メモが語る重み
田村 良彦 (読売新聞メディア局専門委員)
エーザイとバイオジェンによる新薬候補「アデュカヌマブ」の承認申請の行方が注目される中で、本書の出版はまさにタイムリーだ。だが、下山進氏がアルツハイマーの取材を始めたのは2000年代初めに遡り、18年の時を経て出版されたと聞いて、まず驚く。当時の取材メモに残された、まだ幼かった娘さんの落書きのエピソードがほほえましい。
メディアに関する著書などで知られる下山氏が、なぜアルツハイマーの取材にのめり込むことになったのか。ある科学者との出会いに始まり、遺伝性アルツハイマーの患者、研究者、製薬企業の研究者ら、苦難を乗り越えてアルツハイマーの克服を願う人々への深い敬意が根底にあると感じられた。
「医療部」や「経済部」などの特定の分野を取材している記者ではなく、この本を書くことは「自分にしかできないこと」という氏の話は、フリーランスのノンフィクション作家として強烈な自負をのぞかせた。「科学は科学として独立して存在するわけではない」と下山氏。一人一人の人間として思いをくみ取りつつ、企業や経済の論理に左右される新薬開発や、社会の動きなどが複雑に絡み合う中にこそ、科学は存在するという下山氏の話は、この本を読むとよく分かる。
実は、記者会見の時にはまだ本を読んでおらず、終了後すぐに購入して読んだ。ありきたりの表現になってしまうが、アルツハイマーをめぐる患者や研究者の「人間ドラマ」が詰まっていて、一気読みしてしまった。
「アデュカヌマブ」の行方は本稿を書いている時点では分からないが、どんな判断が下されようと、アルツハイマー研究が歩んできた長い道のりを知り、さらに一歩を踏み出すために、今、多くの人に読まれるべき一冊だ。
ゲスト / Guest
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下山進 / Susumu Shimoyama
ノンフィクション作家
研究テーマ:『アルツハイマー征服』