2020年12月07日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「デジタル庁とマイナンバー」(5) 越塚登・東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長

会見メモ

デジタル庁創設に向けた政府の基本方針が年内にもまとまる。IoT、スマートシティなどを専門とする越塚氏に、デジタル庁に求められる役割、制度・システムの設計にあたり留意すべき点などについて聞いた。

越塚登氏(東京大学大学院 情報学環・学際情報学府HP)

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

「重要なのはデータ連携インフラ」

吉田 ありさ (日本経済新聞社編集委員)

 越塚登・東京大学大学院情報学環長・教授の会見は苦言から始まった。デジタル庁の期待が高まる一方、関連報道では技術の観点が欠落し、ハンコなど本筋を外れた議論が多いという。

 技術の歴史は20年おきにパラダイム・シフトがあり、20年前のインターネット革命を経て今はデータの時代と説明。「IT(情報技術)戦略も抜本的に見直す時」として、サービス向上へ技術のインフラ整備が欠かせないと強調した。

 日本は20年前にIT戦略本部を新設したが、東日本大震災、新型コロナと国家的な困難のたび、政府や自治体のデジタル対応の不備が露呈した。背景にある日本の弱点は技術ではなく世界的なプラットフォーム(PF)を作れなかったことと指摘。サービスより「先にPFで世界を制覇することが欠かせない」と「PFファースト」を訴えた。

 政府システムを基本設計から見直す際、先行した欧州の経験が参考になるという。新技術で新サービスを導入すれば古いサービスを止める欧州に対し、日本は旧サービスも維持するため高コストになる。ETC導入後も現金対応のため二重投資する高速道路を一例に挙げた。今後マイナンバーカードへの移行を円滑にするには新サービスに不慣れな人に訓練を提供する考え方もあるとした。

 政府・自治体はデータ時代の最大のPF保持者であり、そのデジタル戦略は「国際競争力に大きなインパクトがある」と指摘。電子政府の設計図と基本機能をまとめた「政府OS」が必須とした。

 具体的にはデータを探せる、取得できる、つながる「データ連携システム」が重要であり、分野ごとに分立したデータ基盤をつなぐ仕組みやデータ活用とプライバシーを両立させる法制度といったインフラ整備が喫緊の課題とした。

 ただ、「制度を変えるのは難しい」とも話し、すぐに目に見える成果の要求は「システムを歪める」とメディアにくぎを刺した。

 質疑応答で印象に残ったのはデジタル人材不足に関する議論。越塚教授によると、大学で志望学生が増えても教える側は増えないミスマッチもあり既存の専攻分野のなかにデジタル教育を取り込む形になっている。大学の縦割り枠のスクラップビルドも難しいようだ。

 専門用語も多かったが、かみ砕くとインフラを整えることで、社会にとって新技術は是か非かの二者択一でなく、より賢く進む道が開くのだろうと理解した。その意味合いを普通の人が腑に落ちるようどう伝えていくか。ジャーナリストも問われる時代に入ったと痛感した。


ゲスト / Guest

  • 越塚登 / Noboru Koshizuka

    日本 / Japan

    東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長 / the dean of the Interfaculty Initiative in Information Studies, The University of Tokyo

研究テーマ:デジタル庁とマイナンバー

研究会回数:5

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