2020年11月26日 11:00 〜 12:00 10階ホール
兒玉和夫フォーリン・プレスセンター理事長 会見

会見メモ

今年7月まで4年間、EU日本政府代表部の大使を務めた兒玉和夫氏に、英国のEU離脱と最新の欧州情勢、今後の日EU、日EU米3極関係などについて聞いた。兒玉氏は9月に外務省を退官するまでに、外務報道官、OECD大使(2013~2016年)などを歴任した。11月1日からフォーリン・プレスセンターの理事長を務めている。

司会 播摩卓士 日本記者クラブ企画委員(TBSテレビ)


会見リポート

歴史の正しい側に立つことが大切

川北 省吾 (共同通信社編集委員)

 パーマストン卿と言えば、19世紀の英国で活躍し「パクス・ブリタニカ」を体現した政治家として知られる。「英国には永遠の友も永遠の敵もいない。その政策は国益によって導かれなければならない」という有名な言葉を残した。

 このくだりが人口に膾炙(かいしゃ)したため、国益第一のリアリストというイメージが強い。しかし、兒玉さんによると、パーマストンはその前に「英国の真の政策とは、正義と権利の擁護者になることである」とも述べているという。

 現実の世界では、ともすれば軍事力などの「パワー」が幅を利かせ、「国益」が行動の基準となる。兒玉さんは「国益の擁護と正義の擁護は必ずしも矛盾する目標ではない」として、「価値」の重要性にも目を向けるよう訴えた。

 中国との「体制間競争」も同じ見地から「価値を巡る争い」と喝破する。共産党が14億の民を導く大国に対し、自由と民主主義を奉じる国々は「普遍的価値が毀損されることのないよう踏ん張らなければいけない」と力を込めた。

 日本と欧州連合(EU)の連携にはとりわけ期待を寄せる。兒玉さんがEU日本政府代表部大使だった2年前、日欧は「米国第一」のトランプ政権に抗し、経済連携協定(EPA)をまとめ上げた。価値観外交でも「協働できる」と言い切る。

 EUは今、気候変動とデジタル革命への対応に最も力を入れているという。菅義偉首相も「2050年までの温室効果ガス排出ゼロ」や「デジタル庁創設」を掲げ、バイデン米次期政権はパリ協定に復帰する。戦略的連携の好機だろう。

 欧州情勢を越え、示唆と洞察に富む会見だった。歴史学者の朝河貫一を引き「歴史の正しい側に立つ」ことが大切との指摘は特に印象に残った。混迷する世界だからこそ人類普遍の価値を信じ、未来を開いていこうとする意志と楽観を感じた。


ゲスト / Guest

  • 兒玉和夫 / Kazuo Kodama

    日本 / Japan

    フォーリン・プレスセンター理事長 / 前 欧州連合日本政府代表部特命全権大使 / President, Foreign Press Center Japan / former Ambassador of Japan to the European Union

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