2020年11月13日 14:00 〜 15:00 10階ホール
パトリシア・フロア駐日欧州連合大使 会見

会見メモ

欧州連合(EU)と英国による自由貿易協定(FTA)の交渉状況や、今後の両国の関係の展望、日本への影響について、フロア大使が話した。

司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

通訳 戸出泰輔氏(駐日欧州連合代表部)


会見リポート

瀬戸際のEU・英FTA交渉/合意目指すが譲れぬ条件も

三好 範英 (読売新聞社編集委員)

 「一日一日が重要になっている」――残り1カ月半。年末までに自由貿易協定(FTA)妥結を目指す英国との交渉が、決裂する恐れが高まっている。フロア大使は記者会見で危機感を強くにじませた。

 合意がないまま「移行期間」が終われば関税が復活し、ただでさえコロナ禍で苦しいEU・英国双方の経済に、一層の打撃を与える。英国政府の対EU強硬派・カミングス上級顧問解任の情報もあるが、まだ英国に譲歩の兆候はない。EUも同様だ。

 フロア氏は「英国と包括的な協定を結びたい。それは双方にとって利益になる」と語る一方、「あらゆる犠牲を払って、というわけではない」と釘を刺した。

 譲れない条件として、「全ての企業に公平な競争環境を担保する」「漁業に関する長期的な合意」などを掲げた。これまでの交渉でEUは英国に対し、政府補助など産業政策をEUルールに合わせるように求めている。漁業問題に関しては、「海の主権回復」に基づき、毎年漁獲量などを交渉する新たな仕組みを求めている英国に対して、EUは現状維持を図りたい。

 フロア氏の発言は、これまで平行線をたどってきた対立点に関して原則的な立場を改めて説明したもので、「来年1月1日に想定されるあらゆる事態への準備は出来ている」とも強調し、ボールは英国側にあるとの姿勢を変えなかった。ただ、「交渉は24時間体制でのぞむ。昨年同じ頃、(離脱交渉で)限られた時間で何とかこぎ着けた」とも述べ、合意への含みも残した。妥協を導く何か隠し球があるのだろうか。

 国際社会は規範に基づいた多国間協調の世界に向かっており、EUはその先駆けとの見方が失墜してしばらくたつ。英国との新たな関係は、EUが元の軌道に戻れるかどうかの一つの試金石だ。瀬戸際まで追い詰められた交渉の行方を見守りたい。


ゲスト / Guest

  • パトリシア・フロア / Patricia Flor

    欧州連合 / European Union

    駐日欧州連合代表部代表・大使 / Ambassador, Head of the Delegation of the European Union to Japan

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