2020年05月21日 11:00 〜 12:00 オンライン開催
「新型コロナウイルス」(21) 澤田康幸・アジア開発銀行(ADB)チーフエコノミスト

会見メモ

アジア開発銀行(ADB)が5月15日に発表した「新型コロナウイルス感染症の経済的影響に係る改訂評価報告書」について、ADBの澤田康幸チーフエコノミストが解説した。同報告書では、年次の主要経済報告書「アジア経済見通し2020年版」(4月3日発表)で示した予測を改訂し、コロナ禍が世界経済に与える影響を分析している。

司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

 

投影資料

「新型コロナウイルス感染症の経済的影響に係る改訂評価報告書」(5月15日発表)

5月15日付ニュースリリース(和文)

「アジア経済見通し2020年版」(4月3日発表)

アジア開発銀行(ADB)

アジア開発銀行駐日代表事務所


会見リポート

貧困問題への悪影響強調

梶原 誠 (日本経済新聞社コメンテーター)

 アジア経済の専門家がコロナ渦の影響を語った。収束までに6カ月を要した場合の世界の予想損失は、世界の国内総生産(GDP)の合計の9・7%に相当する8・8兆ドルに及ぶ。

 損失額は、4月に試算した時点の4・1兆ドルから大きく膨らんだ。試算すべき国の数も、試算にあたって考慮すべき要素も1カ月で急増したためだ。

 2月までは、コロナ渦を2002年に中国を中心に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)に例える人もいたが、そんな声はもうない。多くの人が直面した「誤算」というキーワードが会見からも浮かび上がった。

 澤田氏がとりわけ強調した誤算が、貧困問題への影響だ。経済発展が続いた結果、アジアの貧困者はほぼ一方的に減少し、これからも減少は続くはずだった。ところが収束まで6カ月かかれば減少は止まってしまう。

 同時に浮き上がったのは、政策がいかに重要かだ。打ち出しつつある政策、特に個人の所得を埋める政策などを実行すれば、損失は約40%減の5・4兆ドルに減る。「所得補償や雇用保護は、長期の悪影響を避けるために不可欠」。これが分析をもとにした提言だった。ウイルス封じ込めに時間がかかれば、景気が悪化して金融危機という別の問題に飛び火する。

 澤田氏は、収束までに6カ月を要する場合と3カ月を要する場合の2つのシナリオをもとに分析した。これからは、もっと多様なシナリオを作って分析をすれば、政策への影響力も大きくなる。例えば「グローバルな協調が進んだ場合と進まなかった場合」はどうか。

 ウイルスは地球規模に拡散しているのでグローバルに対処する必要がある。それなのに、今浮き上がっているのは米中対立をはじめとするグローバル化の危機だ。協調を欠くことにより経済的な損失がどれほど深刻になるかを数字で示せれば、各国の指導者に対する強い警告となるに違いない。


ゲスト / Guest

  • 澤田康幸 / Yasuyuki Sawada

    アジア開発銀行(ADB)チーフエコノミスト / chief economist, Asian Development Bank (ADB)

研究テーマ:新型コロナウイルス

研究会回数:21

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