2020年03月05日 13:30 〜 14:30 10階ホール
著者と語る『失われた福島のバラ園』ジャーナリスト マヤ・ムーア氏、バラ園園主 岡田勝秀氏

会見メモ

東日本大震災と福島第一原発事故により閉園に追い込まれた福島県双葉町の「双葉ばら園」。本著はアメリカ人ジャーナリストのマヤ・ムーアさんが、園主である岡田勝秀さんを取材し、岡田さんがばら園にかけた思いや震災による影響を写真とともに綴ったもの。

会見では著者のマヤ・ムーアさんと園主である岡田勝秀さんが登壇し、震災前後のばら園の写真を投影しながら、今の思いを語った。

司会 上田俊英 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

 


会見リポート

置き去りのバラが問いかけるもの

早川 由紀美 (東京新聞論説委員)

 3月4日、避難指示の一部が解除された福島県双葉町。とはいえ駅周辺などごく一部で、東京電力福島第一原発事故後、散りぢりになった町民たちは戻れないままだ。

 岡田勝秀さんは事故前、毎年5万人が訪れる「双葉ばら園」を営んでいた。17歳の時に街角で見かけたバラに恋に落ち、前回東京五輪のあった1964年に事業に着手。ヒマラヤ杉なども配した立体的な庭園を数十年かけて作り上げた。原発事故は、岡田さんと一輪一輪大切に育てた「娘たち」を引き裂いた。

 テレビ番組の元キャスターのマヤ・ムーアさんは震災後、偶然バラ園のニュースを見かけ衝撃を受けた。「バラ園を通じて音もにおいもない原発事故のことを伝えられるんじゃないか」と感じ、本の出版を思い立った。

 マヤさんが、茨城県つくば市の岡田さんの避難先を初めて訪れた時、裏庭には雑草が生い茂っていた。「僕はもう何も育てたくない」と裏庭を見つめた岡田さんの目つきが忘れられないという。

 英語版、韓国語版に続き、今年、日本語版が出版された。マヤさんとの語らいを通じ、岡田さんは気持ちが前向きになり、息子二人とともに、別の場所でバラ園をもう一度作ろうという夢を抱けるようになった。

 マヤさんは、福島の一番の悲劇は「福島県人同士がどれだけ苦しんでいるのかお互い話せないことなんじゃないかな。話すことで感情は消化していけるのに」と話す。賠償金など金銭的な差異が住民に分断をもたらしている。「本を見て福島の人たちが『双葉ばら園行ったね』と懐かしい話を共有できたらなあと思う」

 いまだ続く福島の苦悩を、日本社会は忘れ去ろうとしているのではないか。マヤさんは繰り返し、私たちに問い掛けた。スライドに次々と映し出される大輪のバラたちも、瞳のように、こちらを見つめていた。


ゲスト / Guest

  • マヤ・ムーア / Maya Moore

    ジャーナリスト / Journalist

  • 岡田勝秀 / Katsuhide Okada

    双葉ばら園園主

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