2020年01月21日 10:30 〜 11:30 9階会見場
「スウェーデンの性交同意法 強制性交とは何か」

会見メモ

写真1枚目左からヴィヴェカ・ロング氏、ヘドヴィク・トロスト氏。

 

ジャーナリストの伊藤詩織さんが起こした性暴力被害を巡る民事裁判では、性行為に合意があったかが争点となった。刑事事件は不起訴処分とされたが、昨年12月の東京地裁判決では伊藤さん側が勝訴し、日本社会の性被害への対応が国際的にも注目を集めた。

 

日本では2017年に刑法が改正され、強姦罪を強制性交等罪に改め、法定刑が3年以上の有期懲役から5年以上の有期懲役に引き上げられるなど性犯罪が厳罰化された。ただし罪に問うには抵抗できないほどの暴行・脅迫があったと立証する必要があり、無罪判決が相次いでいる。改正法には施行後3年をめどに必要があれば見直しを検討するとの付則があり、法務省内で議論に向けた準備が進んでいる。

 

スウェーデンでは2018年の法改正で「暴行・脅迫」要件を削除し、同意のない性行為を犯罪とした。同意に基づいたレイプ等の有罪判決が出ているという。 

 

同国のヴィヴェカ・ロング司法省上級顧問、ヘドヴィク・トロスト検察庁上級法務担当が会見し、法改正の経緯と評価について報告した。

  

司会 磯崎由美 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)

通訳 渡辺奈緒子(サイマルインターナショナル)


会見リポート

「同意なしはレイプ」と法改正

椋田 佳代 (毎日新聞社くらし医療部)

 スウェーデンでは2018年7月に刑法が改正され、同意のない性行為を罪に問える性犯罪規定が新設された。「イエス」という積極的な同意が示されなければ「ノー」と解釈される今回の法改正の背景について、改正に関わったスウェーデン司法省上級顧問のヴィヴェカ・ロング氏と検察庁上級法務担当のヘドヴィク・トロスト氏が語った。

 

 改正法は、レイプ罪を「自発的に参加していない者と性交をし、または性交と同等と認められる性的行為を行った者」に適用すると規定。相手が同意していなかったことに対して著しく注意を怠った場合に適用される「過失レイプ罪」も新設された。トロスト氏は「ベースとなっているのは自発的な参加だ」と強調。「構成要件として暴行や脅迫の有無や、それが加害者によって行われたこと、被害者の脆弱な状況に乗じて行われたかどうか証明しなくてもよくなった。相手が自発的に参加していなかった、というだけで有罪にすることが可能になった」と語った。

 

 改正を後押ししたのは市民感情だ。スウェーデンは2005年、13年に刑法を改正し、レイプ罪の対象を拡大した。性的行為には同意を必要とするという規定は、被害者の負担が増すなどの懸念から見送られていたが「2回の改正後も国民は満足せず議論が続き、政府の委員会の任命につながった」とロング氏。最終的には全政党が改正を支持したという。

 

 昨年7月には最高裁の判例も示された。同じベッドで横になることに同意し、下着しか着用していなかった女性との性行為について、最高裁は自発的参加の証明にはならないと判断し、過失レイプ罪に当たるとした。トロスト氏は「施行からまだ1年半のため効果を述べるには早いが、長期的な目標は規範や価値観を変えていくことにあり、レイプ犯罪を扱う上で指標となる判決が進むことを期待している」と話した。

 


ゲスト / Guest

  • ヴィヴェカ・ロング / VIVECA Lång

    スウェーデン / Sweden

    スウェーデン司法省上級顧問 / Senior Legal Adviser, Ministry of Justice

  • ヘドヴィク・トロスト / HEDVIG Elisabeth Trost

    スウェーデン / Sweden

    スウェーデン検察庁上級法務担当 / Senior Legal Manager and Deputy Director of Legal Affairs, Legal Department, Swedish Prosecution Authority

研究テーマ:スウェーデンの性交同意法 強制性交とは何か

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