2020年01月31日 14:00 〜 15:00 10階ホール
佐々木毅・東京大学名誉教授 会見

会見メモ

政治思想を研究してきた佐々木毅・東京大学名誉教授が、「民主政を再点検する-利益政治からポピュリズムまで-」と題して話した。

 

司会 山田惠資委員 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

「嘘」を制御できない民主政

根本 清樹 (朝日新聞社論説主幹)

 世界各地の先進民主政で観察されているポピュリズムを、利益政治との対比で鮮やかに分析した。

 20世紀中葉に成立した利益政治は、多元的な利益が互いにぶつかり合い、競合する政治であり、取引のモデルに近い。独占的な支配にはなじまず、強大なリーダーは現れにくい。夢や思想的な高尚さは欠く代わり、国民からすれば「だまされる確率が比較的低い民主政のスタイル」ということになる。「政治の日常的な健全さ」が歯止めとなる「あまり大騒ぎをしないデモクラシー」である。

 1970年代の閉塞感打破を試みたレーガン、サッチャーの新自由主義も、今から振り返れば利益政治の「延長戦」だったというのが佐々木氏の見立てだ。

 ポピュリズムの勃興は、リーマンショックやユーロ危機により、利益政治が「燃え尽き症候群」に陥り、機能不全が顕在化したことと関係する。そこには「腐敗したエリート」対「健全な人民」という二項対立的な思考様式があり、反多元主義、反自由主義、非寛容を特徴とする。

 20世紀前半の「権威主義的なイデオロギーやアイデンティティーについての神話を振り回す政治」の再現であり、「デモクラティックであることは、リベラルでないことと矛盾しないという現象」の再来である。

 これまでの生活や職場が失われるという有権者の不安感や恐怖心がポピュリズム現象の背後にあるとの見方を紹介しつつ、今、民主政をどう作り直すのか、新しいスタイルを編み出すのかという岐路に立っていると、佐々木氏は指摘した。

 政治家の資質についての質問に対しては、日本だけでなく世界的に劣化が見られると応答。最近は「嘘」の問題が気になるとし、「嘘をある程度以下に制御するのが、民主政の一つの正当性だったが、だいぶ様変わりした。ポスト・トゥルース・ポリティクスなどと平気で言われるのも、やはり劣化の現れ」と述べた。


ゲスト / Guest

  • 佐々木毅 / Takeshi Sasaki

    東京大学名誉教授 / professor emeritus, Tokyo University

ページのTOPへ