会見リポート
2019年11月27日
16:00 〜 17:30
9階会見場
「ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの」(1) 作家・高橋源一郎氏
会見メモ
東西冷戦の象徴だったベルリンの壁崩壊から11月9日で30年が経った。壁の崩壊が現代史に与えたインパクトについて、シリーズで識者に聞く。
第1回ゲストとして作家の高橋源一郎氏が登壇、自著「追憶の一九八九年」(1990年 、スイッチ書籍出版部)をもとに、1989年を振り返るとともに、ベルリンの壁崩壊が日本の思想に与えた影響について語った。
司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)
会見リポート
「日常」の視点から89年を追憶
鈴木 美勝 (専門誌『外交』前編集長)
昭和天皇崩御、天安門事件、そしてベルリンの壁崩壊。1989年で想起される歴史的大事件を挙げるなら、通常、この三つだろう。が、アヴァター(分身)・高橋源一郎さんは「ベルリンの壁崩壊30年」について、ストレートには語らず、日々の生活に引き寄せて89年を追憶した。
昭和が終わった日、新元号「平成」が発表された。妻は『変ッ』と一言で切り捨てた。テレビでは、評論家・江藤淳が思わず絶句していた、と。
高橋さんは89年、月刊誌連載用に日記をつけ始めたが、日々記した多くは、趣味の競馬や読書・映画鑑賞に費やす自身と、妻や猫の日常。加えて、自身の琴線に触れた事件を織り込んで三大事件の隙間を埋め込み、連動する〈歴史〉の断片をつなぐ姿勢に徹した。手塚治虫、松下幸之助、美空ひばり死す、そして宮崎勤の幼女連続誘拐殺人事件。ヨーロッパのピクニック事件、ビロード革命等々。思えば、平成元年に生じた問題/事件は、今に連なる深刻な課題を内包していた。
60年代の学生運動の闘士も、この頃は非政治的市民として生きていた。その昔、『断腸亭日乗』で大逆事件に全く触れなかった永井荷風同様、大上段に振りかぶってベルリンの壁崩壊自体を語るよりも「日常」の視点から、〈89年〉を語り続けた。
今や人間社会はデジタル化へと動く。ありとあらゆるものが数値化していく現在、生活人の実感をコアに過去を振り返る思索なしには他人事に終わり、真の歴史認識を獲得できない。デジタル化社会から抜け落ちた本来の〈史実〉を丹念にすくい上げ、全体を把握する作業を辛抱強く積み重ねていく―それ以外、後世に伝えるに値する真の〈歴史観〉は構築できない。私にはそう聞こえた。
その晩、NHK番組「深読み音楽会」で、井上陽水の詞を解読する高橋さんに〝遭った〟。一推しで挙げた曲は「なぜか上海」。♬流れないのが海なら それを消すのが波です こわれた様な空から こぼれ落ちたとこが上海…。
ゲスト / Guest
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高橋源一郎 / Genichiro Takahashi
研究テーマ:ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの
研究会回数:1