2019年11月29日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「朝鮮半島の今を知る」(37) 文政権後半のアジェンダと予測 ロー・ダニエル アジア・リスク・モニター代表

会見メモ

政治経済学者、アジア歴史研究者のロー・ダニエルが、任期後半に入る文在寅政権の現状と今後の分析を示した。

ロー氏は韓国出身、米マサチューセッツ工科大学で博士号を取得し、香港や上海の大学教員、一橋大学研究員などを経て、朝鮮半島と周辺地域の政治経済リスクを分析する「アジア・リスク・モニター」をソウルで設立した。竹島の領有権を巡る日韓交渉の裏側を描いた著書『竹島密約』(2008年、草思社)で第21回アジア・太平洋賞大賞を受賞。

『竹島密約』

司会 五味洋治委員 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

日本の「機能政治」対、韓国の「理念政治」

吉田 成之 (共同通信社出身)

 韓国政界や日韓関係をウオッチしている韓国出身のロー・ダニエル氏は、文在寅大統領についてこう語った。「同志であった故廬武鉉元大統領との社会派弁護士時代の『絆』で結ばれ、共に描いたリベラル派の価値体系に基づく国づくりをしている。長く続いた保守政治と決別しようと妥協や『政治家』たることを拒否している」

 大統領の側近については社会活動家を経験した「理念の友」が多いという。文在寅大統領は「5000万人の統治者というより、『正義の守護者』だ。『南北経済共同体』と福祉国家を目指している」。文氏を支持しているのは50代の「86世代」。来年4月の総選挙が重要と指摘する。

 現政権の経済政策に対しては「批判は多いが、保守派は弱体化している。韓国には『G10』国家だ、という意識がある」とみる。「通常先進国になるにつれ、民族主義は薄くなるものだが、韓国では強くなっている。もはや北朝鮮が安保上の脅威と思っていない。兵力60万人態勢も減らすだろう」と予測する。

 対外関係では、韓国は米国一辺倒ではない。『遠い国』になった。漢江の奇跡という成長モデルは終わったとの認識から、中国やASEAN諸国、ロシアなどユーラシアに接近していくだろうとみる。

 日韓関係については両国エリートに相互理解や知見が不足していると指摘する。「日本が法律や手続きに拘る『機能政治』なのに対し、文政権はその場その場で正義実現を図る『理念政治』だ。韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を取りやめたが、韓国では米国の圧力や国力の違いにより力で負けたと受け止めている」。後味が良くない結果で安倍政権とは関係が良くないまま、文政権が終わるだろうとみる。

 日本でも出版された『反日種族主義』をどうみるか?の問いには―これまでの研究結果が公に出た。多くの人々が共有していたことが市民権を得たのだ―という見解だった。歴史問題という棘がささったままの日韓関係。打開は容易でないと思い知らされた。


ゲスト / Guest

  • ロー・ダニエル / Daniel Roh

    韓国 / South Korea

    アジア・リスク・モニター代表 / President / CEO, Asia Risk Monitor

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:37

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