2019年04月16日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「ポピュリズム考」(4) 水島治郎・千葉大学教授

会見メモ

ポピュリズムの本質は右か左かではなく、既得権益層、エリート層といった「上」の政治に対して民衆=「下」に依拠した運動であること、と解説。「大衆迎合主義という訳語が持つ否定的なニュアンスは本来のpopulismにはない」とも。

「既存の政党や団体の組織率が低下して弱体化する一方、ポピュリズム政党はSNSなどで直接有権者とつながることで“無組織層”を取り込む“中抜き政治”を展開している」とし、直接商取引の拡大やSNSによる既存メディアを介さない情報発信などとあわせ、「中抜き時代」の到来を指摘した。

 

『ポピュリズムとは何か』(中公新書 2016年)


会見リポート

中間組織を必要としない「中抜き時代」の幕開け

軍司 泰史 (共同通信社編集委員)

 水島治郎氏は2000年代初頭にオランダで生じた政治的変化に着目し、「ポピュリズム」が世界的な潮流となる前から分析と研究を続けてきた一人だ。

 講演では、専門であるオランダのほか米国、フランス、ドイツ、イタリア、そして日本の政治組織を「右派と左派」「上(既得権益層)と下(大衆層)」を軸に4つの象限に当てはめて概観。ポピュリズムとは政治的な左右とは関係なく、「下」の「上」に対する対抗運動であるととらえた。

 既成政党、中でもかつて大衆層の代表であった社会民主主義政党など中道左派は、欧州各国で凋落している。例えばフランスでは2012年に社会党のオランド政権が誕生したが、新自由主義的な政策の変更には至らず、支持層の離反を招いた。左派もまた権威と見なされている。

 水島氏は、旧来権威の弱体化は、政治だけでなく経済、労働、メディア、文壇・論壇などあらゆる分野に及んでいると指摘する。その多くは、労働組合や職業団体など20世紀型の「中間組織」だ。会員制交流サイト(SNS)の拡大に伴い、人々は既存メディアなど中間組織を飛ばして、必要なものと直接つながるようになった。「中抜きの時代」が始まっており、ポピュリズムはその政治分野における表れと見る。

 講演でとりわけ考えさせられたのは、ポピュリズムを「大衆迎合主義」と否定的に翻訳するメディアへの批判だった。「既存メディアが、大衆に信をおいていない。結果として既成の体制擁護に回っている」「エリートと大衆のどちらが正しいか、という考え方をすべきではない」という指摘は、メディアが英国民投票での欧州連合(EU)離脱派勝利やトランプ米大統領の誕生を予見できなかった理由について、示唆を与えていると感じる。


ゲスト / Guest

  • 水島治郎 / Jiro Mizushima

    千葉大学教授 / professor, Chiba University

研究テーマ:ポピュリズム考

研究会回数:4

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