2019年05月27日 16:30 〜 17:30 10階ホール
総会記念講演会 新井紀子・国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長・教授、一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長

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会見リポート

AIに対抗するには読解力

澤 圭一郎 (毎日教育総合研究所代表取締役社長)

 小中高校の先生の嘆きをよく聞く。「文章が読めない子が多い。当然、書くことも苦手です」

 子どもたちの「読めない、書けない」は、もちろん今に始まったことではない。以前から長らく指摘され続けてきた。学習指導要領が変わろうが、学力テストを悉皆(しっかい)で実施しようが、課題は課題のまま変わらずに残り続けているのだ。なかなか解決できぬこの課題を抱え込みながら、だましだまし教育を重ねてきたのが学校だろう。だが、もうだませぬところまできているのではなかろうか。

 彼らを取り巻く状況が激変した。AI(人工知能)の急速な普及だ。

 メディアでAIという文字が取り上げられない日がないほど認知は高まり、もっぱら「人知を超える存在になるシンギュラリティが訪れる」などと喧伝されているのだが。

 新井教授の講演はメディアを叱るところから始まった。「人間を超えるシンギュラリティはあり得ない」「人と同じように学習するなどというのも間違い」。理屈が分からぬ記者には「もう記事は書かないでほしい」。数理論理学者としての指摘である。だが主題はそこではない。

 人と同じではないから、AIは文章の意味が分からない。「読解力」が苦手だ。しかし、大量のデータと確率で「仕事」をこなし、処理能力は高いから、その手の仕事は取って代わられる。人としてAIに取って代わられない仕事をするなら、AIが苦手な読解力を駆使する必要がある。つまり、文章の意味を理解して読めることがまずは重要で、先生が嘆く「文章が読めない」では済まされない世の中がくるという。

 せめて中学の教科書がきちんと読めるように教育すること。「それ以外の余計なことはやめてほしい」とまで、新井教授は語気を強める。今のままでは仕事にあぶれる人を作り出すだけだと。メディアと今の教育に注文たっぷりの講演だった。


ゲスト / Guest

  • 新井紀子 / Noriko Arai

    国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長・教授 一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長

研究テーマ:人工知能がもたらす人間と社会の未来

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