2018年12月21日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「変動するサウジアラビア、イランの政治経済」畑中美樹・国際開発センター研究顧問/鈴木均 ・アジア経済研究所上席主任調査研究員

会見メモ

米国による対イラン制裁発動やサウジアラビアのジャーナリスト殺害事件が、両国の政治・経済や中東情勢にどのような影響をもたらすのか、2氏が分析した。

 

写真左=鈴木均氏、右=畑中美樹氏

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

サウジ、イラン 来年も中東情勢の中心に

大内 清 (産経新聞社外信部(前中東支局長))

 2018年の中東は、ペルシャ湾岸の2つの産油国をめぐって揺れ動いた。サウジアラビアとイランである。

 10月にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で発生した記者殺害事件で、サウジ改革の旗手とされてきたムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対する世界の認識は大きく変わり、サウジの内政・対外政策が不透明感を増した。イランについても、米国が核合意からの離脱を宣言して原油禁輸を含む独自制裁を再発動させたことで、やはり不透明感がいや増しにも増している。

 両国と中東の情勢は来年以降、どのように展開するのか。興味津々の中東ウオッチャーらにとり、年の瀬に企画された今回の研究会は、専門家2人の見解を聞くことができる得難い機会となった。

 ムハンマド皇太子をめぐっては、記者殺害事件を受けて求心力が低下するのではないかとの指摘がある。この点について畑中氏は、事件後に国王が皇太子を帯同して国内を巡行し、有力部族などからの支持を取り付けたことなどを挙げ、「父のサルマン国王が存命の間に権力が不安定化することはないだろう」と分析。皇太子主導の経済改革に対し、人口の6割強を占める若者層からの期待感も底堅いとみる。

 ただし、リスクもある。最たるものが原油価格だ。サウジは2023年までに財政収支を均衡させるとの絵図を描くが、来年も世界的に原油は供給過剰気味で油価低迷が予想され、目標達成は見通せない。「その対策として財政支出を下げるなら、国民の不満が高まり、不安定性が高まる恐れもある」というわけだ。

 一方、イラン。トランプ米政権の制裁圧力を受け、米国が求める新たな核交渉に応じるか否かが最大の焦点だが、鈴木氏は「ポンペオ国務長官が示した(ウラン濃縮の完全放棄や弾道ミサイル開発の停止などを含む)12項目の要求をイランがのむことはあり得ない」と断じる。

 その上で、イランの統治機構は強力で現体制が崩壊に向かう兆候はないことから、「トランプ政権が続く今後の2年間は米国との交渉は考えず、トランプ氏の退場後の政策転換を期待するのが最善と判断している可能性が高い」と分析。国際社会から最低限の支持を得続けるために、イラン自身が核合意を破棄することは考えづらい、とも指摘した。

 来年もサウジ、イランは中東情勢の中心であり続けるだろう。今回、話しをされた両氏の分析がさらに重要性を増すこともまた、間違いない。


ゲスト / Guest

  • 畑中美樹 / Yoshiki Hatanaka

    国際開発センター研究顧問 / Advisor, International Development Center of Japan

  • 鈴木均 / Hitoshi Suzuki

    アジア経済研究所上席主任調査研究員 / Chief Senior Researcher, Institute of Developing Economies

研究テーマ:変動するサウジアラビア、イランの政治経済

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