2018年09月25日 14:00 〜 15:00 9階会見場
著者と語る『大学生白書2018 いまの大学教育では学生は変えられない』溝上慎一・桐蔭学園トランジションセンター所長・教授

会見メモ

著書の元になった、2007年から3年ごとに実施してきた「大学生のキャリア意識調査」の結果を詳しく説明した。結論は、過去10年の文科省の政策の成果は上がっておらず、キャリア意識は上がるどころか落ちてきているとした。大学が取り組むべきは、ガバナンスの推進と教員がこれまで以上に学生を育てる意識を持つことだと述べた。

 

司会 土生修一 日本記者クラブ専務理事・事務局長


会見リポート

成果上がらぬ大学改革

早川 由紀美 (東京新聞論説委員)

 人生をやり直すことができたなら。

 いくつもの分かれ道はあるけれど、大学時代にもうちょっと勉強すれば良かったかな、とは仕事を始めてから何度も思った。歴史や哲学、考古学。きちんと向き合っていれば、もっと深い考察もできるのでは、ともどかしさを感じるようになったからだ。

 大学生のときはバブルのさなか。外国旅行に行ったり、ブランドの服を買ったりしたくて、バイトばかりしていた。大学も研究者になる一部の学生以外は、授業料を納付して収入源となっていれば、それで良かったんだろう。

 10年ほど前、文部科学省担当となって、そんな大学と学生とのぬるま湯的共犯?関係はもはや許されなくなっているのを知った。溝上慎一・桐蔭学園教授が「大学改革の仕上げになる答申」と位置付ける中央教育審議会(中教審)の学士課程答申が出たのが2008年。そこでは問題解決能力など21世紀型市民としての資質・能力を育てるカリキュラムを構築し、その質を保証することなどを大学に求めていた。

 07年以降、3年おきに実施されている「大学生のキャリア意識調査」に責任者としてかかわる溝上教授は「この10年の文科省施策の成果は上がっていない。残念ながら、いまの大学教育では学生を変えられない」と結論づける。調査結果で見る限り、教室の外での学習時間は短くなり、問題解決能力なども育てられていないという。大学での卒業時のチェックが甘いとして奮起を促す。

 正論だと思う。でもなあ、とダメ学生だった私は、今の学生に同情もしてしまうのだ。バイトや就活に追われる彼らは、卒業後は高齢化がさらに進み、右肩上がりの成長は望めぬ未知の領域を生きていく。溝上教授が指摘する、「学生が将来に向けて頑張る」という気持ちが成長の鍵だとするならば、社会の未来に少しでも光をともして出迎えるのは私たち大人の責務でもある。


ゲスト / Guest

  • 溝上慎一 / Shinichi Mizokami

    日本 / Japan

    桐蔭学園トランジションセンター所長・教授、元京都大学教授 / former professor of the Kyoto University

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