2018年03月09日 15:00 〜 16:00 10階ホール
「著者と語る」若竹千佐子・芥川賞作家

会見メモ

 デビュー作『おらおらでひとりいぐも』で第158回芥川賞を受賞した若竹千佐子さん(63)が登壇した。

若竹さんが自作の東北弁部分を朗読すると拍手が起きるなど、会見は終始なごやかな雰囲気で行われた。

若竹さんは岩手県・遠野市出身で、著書でも東北弁が効果的に用いられている。執筆までの過程に加え、「心の中を探索したい」との作品への姿勢を語り、次回作についても触れた。 

河出書房新社『おらおらでひとりいぐも』 

 

司会 小川記代子 日本記者クラブ企画委員(産経新聞)

YouTube会見動画

会見詳録


会見リポート

老後を生きる意味

 人生100歳時代。かけがえのない伴侶を失ってからの長い老後がある。どう生きるのか。

 若竹さんは夫を亡くして、子どものころからの夢だった小説家になるべく講座に通い、8年目にして『おらおらでひとりいぐも』で芥川賞を受賞。63歳だった。会見では訥々とした語り口で、自らを深く見つめなおし、生きることの意味を論理的に組み立てて、故郷の言葉で物語を紡いでいった思いを語った。

 作品の主人公、桃子さんは本人とよく似た境遇の74歳の老女。脳内の柔毛突起と語り合う。井上ひさし張りの東北弁でユーモラスに。会見で冒頭、若竹さんは著書の一部を朗読した。受賞後、故郷の遠野へ帰った時、多くのお年寄りが喜んでいたことに触れ「東北弁はネガティブに見られ、誇りはあるのだが口に出し難い。よくぞその言葉で書いてくれた、と。ちょっと良いことをしたと思いました」と笑った。

 小説を書く動機については、「自分の心の中を探索するのが好きなんです。人間って何だろう、と。それで分かったことを面白く語りたい」と言う。求めていたのは生きる哲学。夫と二人の子どもに囲まれ、満たされた生活を送りながらも、どこか寂しい思いを抱えた自分がいる。夫が亡くなったのは9年前。絶望した。しかし、何事にも意味を探したい若竹さんは「今度こそ本当に向き合って、見つけたものを小説にしよう」と思い立つ。講座の門をくぐったのは四十九日の翌日だった。夫の死と自分を考え続け、書いていく中で、心の中に悲しみのあまり絶望する自分と、一人になって自由に生きたいという自分がいた。「夫が私に残してくれた愛だった」と語る。

 期待される2作目については「中年から老年に至る女性を主人公に、今回書ききれなかったところを書きたい」と意欲を示した。さりなげない日常を意味あるものに仕立て、老後の応援歌とする作品に期待が膨らむ。

清水 光雄 毎日新聞出身 

 

会見余話:

●控え室では興奮、本番は一転、冷静

 若竹千佐子さんは会見前、控室に入ると、同行した編集者と「すごい、すごい」を連発していた。重厚な調度品や天井の装飾、壁の会見写真に見入り、「こんな所でお話しできるなんて」とそわそわした様子だった。

 ところが会見場では驚くような落ち着きぶり。冒頭、東北弁で芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』の一節を詠じ、一気に若竹ワールドに引き込んだ。

 揮ごうは受賞作品名の後に「みんなでいぐも」と続けた。会見で「そのココロは?」と司会の私が聞いた、若竹さんの回答を知りたい方は会見動画を。ほんわかした温和な雰囲気から想像できない鋭い内面が垣間見え、隣で驚いていたとだけ申し上げる。

 ちなみに服は知人のお手製、コートもそうだという。そんな話をしているときは、やはり温和なのだ。

 企画委員 産経新聞社東京編集局副編集長 小川 記代子


ゲスト / Guest

  • 若竹千佐子 / Chisako Wakatake

    芥川賞作家 / Novelist, Recipient of Akutagawa Literary Award

研究テーマ:『おらおらでひとりいぐも』

ページのTOPへ