2018年02月22日 13:00 〜 14:00 会見場
プラディープ カッカティル UNAIDSドナー関係・パートナーシップ局局長


会見リポート

「エイズはまだ終わっていない。でも終結は可能」

宮田 一雄 (産経新聞出身)

 インドで1991年からエイズ対策に関わり、1994年に横浜で開かれた第10回国際エイズ会議に参加した。

 「あの会議がターニングポイントだった」

 1985年から欧米で交互に開かれていた世界規模のエイズ会議が初めてアジアで開かれ、アフリカやアジアからの参加者の発言の機会も増えた。「アジアの国々のエイズ対策は激変した」と振り返る。

 当時のエイズ治療薬は副作用が厳しく、薬剤耐性ウイルスの壁も立ちはだかっていた。希望は閉ざされているように見えたが、それでも世界は闘い続けた。「死の病」に直面した人たちが自らの闘いを引き受け、何が必要なのかを主張し、社会の様々な仕組みを変える力になった。医療関係者は有効な治療法の開発に取り組み、1996年ごろから次第にその成果が実っていった。

 だが、21世紀に入ったばかりのころにはまだ、アフリカやアジアの低・中所得国でその治療を受けられる人は数えるほどしかいなかった。エイズの原因ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の増殖を抑え、HIV陽性者(HIVに感染している人)の長期生存を可能にする抗レトロウイルス薬は高価で手に入らなかったからだ。

 「いまは治療を待つ人よりも、受けている人の方が多くなっています」

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の最新推計によると、世界のHIV陽性者数は3670万人で、このうち2090万人が抗レトロウイルス薬による治療を受けている。

 「副作用は小さくなり、効力は高まった。以前は1日18錠も飲まなければならなかった薬が1日1錠でよくなった」

 これは医学研究の成果であると同時に、エイズにまつわる偏見や差別と闘い、薬の価格を下げ、多くの人が利用できるよう特許や薬の供給の仕組みを変えてきた社会的な活動の成果でもある。

 エイズ対策における国際社会の大目標は「公衆衛生上の脅威としてのエイズの流行」を2030年までに終結に導くことだ。それはHIV陽性者がいない世界ではない。感染している人が安心して自らの感染を知り、治療を受けることができる。そうした努力を通じて流行の拡大を抑え、縮小に転じていく。カッカティル局長はその大目標を資金面から支えるため、世界を奔走している。

 「2016年に世界がHIV/エイズと闘うために使った資金は年間191億ドルでした。でも、それではエイズ終結に向けて、いま毎年必要とされている金額には70億ドル足りません」

 今回もUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長とともに来日し、3日間の滞在期間中は日本政府の要人や国会議員、財界関係者らとの会合だけでなく、HIV診療を続ける町のクリニックを訪れHIV陽性者や主治医、看護師らとも話し合った。その現場感覚が今後にどう生かされるのか。記者会見では「エイズは終わっていない。いまも続いている。まだ脅威は減っていません。でも、終結は可能です」と語り、そのための日本の貢献に対する感謝もそつなく付け加えた。


ゲスト / Guest

  • プラディープ カッカティル / Pradeep Kakkattil

    国連合同エイズ計画 / UNAIDS

    UNAIDSドナー関係・パートナーシップ局 局長 / Director, Programme Partnerships and Fundraising

研究テーマ:HIV/エイズ

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