会見リポート
2018年03月02日
14:00 〜 15:00
10階ホール
スウィング 国際移住機関(IOM)事務局長 会見
会見メモ
会見リポート
移民の経済貢献をアピール、国際的な支援を要請
二村 伸 (NHK解説委員)
IOM事務局長としての訪日は12回に及ぶ。2期10年間の任期をまもなく全うするスウィング事務局長の会見は、移民に対する差別や偏見をなくし、経済発展の担い手として前向きに捉えるべきだという強いメッセージが込められていた。ちょうど1年前の同じ日、日本記者クラブで会見し、世界で反移民のうねりが高まっている状況を「パーフェクト・ストームの真っただ中にいる」と表現した。「どこで生まれたか、どこで教育を受けたかで判断されてしまう」。移民の置かれている厳しい現実は変わらない。「正規の移民も非正規の移民も、同じ人間であり尊厳をもって扱われるべきだ」「書類が整っていないからといって国境を越えたこと自体は犯罪行為ではない」とも言う。非正規、つまり許可を得ずに入国した移民も、「犯罪者として扱うべきではない」として一時的な保護やビザの発給を各国に求めた。「世界の人口の3%あまりの移民が、世界全体のGDPの9%を生み出している」、移民のポシティブな面に目を向けるべきだと事務局長は述べた。
同時に、「これまで移民の保護や支援については共通の理解や取り決めがなかった」として、現在各国で協議が行われている「移民に関するグローバル・コンパクト」に期待を表明、「人権や支援、気候変動などあらゆる局面において移民の問題に対処するためのものだ」と重要性を強調した。
移民・難民排斥の動きが広がるヨーロッパの国々は、「健忘症にかかっている」と厳しく批判。「第2次世界大戦後、ヨーロッパの人々を守るためにIOMやUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が設立されたことを忘れている。2015年と16年に流入した移民150万人も、全人口に占める割合は0.5%にも満たない。統一した政策をとれば十分管理が可能だ」と言う。母国のアメリカに対しても、「移民によって作られた国であり、歴史的な観点から考える必要がある」とした上で、「移住した難民の中で1件もテロは起きていない」と述べ、こうした事実をしっかり報道してほしいと、移民にネガティブな論調が目立つメディアにも注文をつけた。
スウィング事務局長は、80年代から90年代にアフリカのリベリアやナイジェリア、中米ハイチなどで大使を歴任した。迫害や貧困から抜け出すために移民や難民となって豊かな国を目指す人々を見続けてきたベテラン外交官でもある。声なき人々のために世界を駆け回った事務局長は、移民たちの夢の実現を願いながら9月に退任、その後はマレーシアで暮らすつもりだと笑顔で話しながら会見場を去った。
ゲスト / Guest
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ウィリアム・レイシー・スウィング / William Lacy Swing
国際移住機関 / INTERNATIONAL ORGANIZATION FOR MIGRATION (IOM)
事務局長 / Director General, INTERNATIONAL ORGANIZATION FOR MIGRATION (IOM)