2018年01月24日 15:00 〜 16:45 10階ホール
著者と語る『中国経済の新時代 成長パターンの転換と日中連携』

会見メモ

過剰債務問題など懸念材料はあるが、中国経済は新たな成長パターンに移りつつあると強調した。「サービス産業や個人消費が成長を牽引する」(郭)。「産業は労働集約型から資本・技術集約型の生産にシフトしている」(丸川)

『中国経済の新時代 成長パターンの転換と日中連携』

 

司会 石川洋(事務局)

 

写真左=丸川知雄東京大学教授、右=郭四志帝京大学教授


会見リポート

中国経済“大変身”の秘密はどこに?

冨坂 範明 (テレビ朝日外報部記者)

『中国経済の新時代 成長パターンの転換と日中連携』の各章を執筆した帝京大学の郭四志教授と、東京大学の丸川知雄教授が会見した。

 

郭教授はマクロ経済のデータを用いて、中国経済の発展パターンが、「製造業からサービス業」へ、「投資から消費」へと大きく転換している点を強調した。また、イランやパキスタンと新疆を結ぶパイプライン計画などを取り上げ、「一帯一路」戦略構想における中国の狙いについて解説した。

 

丸川教授は、賃金データなどを用いて、中国の製造業が、労働集約型から、資本・技術集約型へとシフトしていることを、現場での視察経験を交えて説明した。

衛生陶器(便器)といった従来型製品では、厳しい市場競争の下、節水や洗浄機能など、高付加価値化が進んでいる。ドローンなどのハイテク産業では、企業がユーザーと共に新しい用途を開発し、世界シェアを急速に伸ばしつつ、企業規模を急拡大している。また、機械による労働力の代替が困難なアパレル縫製業でも、IT技術を駆使して、わずか7日間でオーダーメードの紳士服を仕立てるサービスが存在するという。

そして、それらのイノベーションを支える通信インフラやサーバーの技術も、いまや華為などの中国企業が担っている例が多いそうだ。これから5G通信が始まり、自動車の「情報化」「知能化」が進むなかで、「自動運転」分野を中国がけん引していく可能性も指摘された。

 

私自身も4年間の北京赴任を通じて、中国経済の変化のスピードを、身をもって体験した。そのイノベーションの原動力について質問したところ、丸川教授からは「企業の自発性」という答えが返ってきた。中国共産党の指導のたまもので、経済発展が実現したのではなく、むしろ党に邪魔されないように、民間企業は工夫してきたのだという。さらに、政治や文学で自己表現できないために、人々の創造性がモノづくりに向かっているのではないかという、興味深い仮説も披露してくれた。

 

共産主義の下での資本主義の導入という、「中国の特色ある社会主義」の大いなる矛盾。習近平の新時代は、その矛盾を克服することができるのだろうか? 記者としては、大上段のテーマが気になるところではあるが、実際はそんなことを気にせず、金儲けに精を出す庶民のしたたかさこそが、中国の本当の強さなのかもしれない。


ゲスト / Guest

  • 郭四志 / Guo Sizhi

    帝京大学教授 / Prof., Teikyo Univeristy

  • 丸川知雄 / Tomoo Marukawa

    東京大学教授 / Prof., Tokyo University

研究テーマ:『中国経済の新時代 成長パターンの転換と日中連携』

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