2017年12月19日 13:30 〜 15:00 10階ホール
著者と語る『憲法と世論: 戦後日本人は憲法とどう向き合ってきたのか』 境家史郎 首都大学東京准教授

会見メモ

1978年生まれの政治学者。戦後70年の憲法関連の世論調査データを詳細に分析し、「9条は制定当初から圧倒的支持された」「高度成長期に改憲派は減少」との通説は、「根拠薄弱の神話」と指摘した。「メディア各社による世論調査には意義があるが、世論調査を使って世論を誘導する傾向を危惧する」とも。

 

司会 川上高志委員(共同通信社)

 

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会見リポート

戦後の国民の憲法観 「通説」に異議

大田 健吾 (読売新聞東京本社世論調査部)

 戦後の日本では、「憲法」の在り方について、政界、学界などにおいて、左右両面の立場からさまざまなアプローチで論議が交わされてきた。しかし、戦後の日本人が憲法をどう見てきたかについて、これまで専門家などが唱えてきたいくつかの「通説」には、先入観に基づく誤解があるのではないか――。

 

 境家氏は、以上のような観点から、戦後の各報道機関、政府の憲法に関する世論調査結果を網羅的に分析。会見では、戦後の各年代で、政治学者など有識者ですら陥った「常識のウソ」を指摘、調査結果をまとめたグラフを用いて解き明かした。

 

 境家氏は、新憲法が制定された1940年代後半は、世論調査の手法が未熟だったことを挙げ、「9条は新憲法制定当初に圧倒的多数の国民から支持された」とする「通説」は、「神話か、少なくとも根拠薄弱。当時の世論は『不明』とするのが誠実な回答だ」と異議を唱えた。高度成長期に、「有権者の改憲志向は低下の一途だった」とする見方も「ステレオタイプ。調査結果で見ると、70年代まで改憲の賛否は拮抗していた」と位置付けた。

 

 こうした「誤解」を生んだ背景として、「憲法改正」自体の是非を問う質問(「一般改正質問」)では、時代によって注目される論点が変わるため、同じ質問でも有権者が受け取る質問の意味が時代によって異なることを挙げた。例えば、一般改正質問は、戦後しばらくは「自主憲法制定」の是非を問う意味合いが強く、後に9条や、「憲法のどこかを修正すべきか」などと変わり、最近では再び9条が意識されている可能性を指摘した。

 

 その上で、境家氏は、憲法に関する各社の世論調査について、一般改正質問は、「意図が曖昧で、解釈の困難を生む」と批判。今後の設問は、将来の憲法改正発議に備えるため、長期的な分析を可能にする「継続性」と同様、質問内容の「具体性」が必要だと注文をつけた。


ゲスト / Guest

  • 境家史郎 / Shiro Sakaiya

    日本 / Japan

    首都大学東京准教授 / Associate Professor, Tokyo Metropolitan University

研究テーマ:『憲法と世論: 戦後日本人は憲法とどう向き合ってきたのか』

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