2018年01月13日 13:30 〜 15:52 10階ホール
試写会「デトロイト」

会見メモ

公式HP

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1月26日(金)から全国公開


会見リポート

今も続く不信と憎悪

水野 孝昭 (朝日新聞元ニューヨーク支局長)

 舞台は、人種対立が激化した1960年代後半のアメリカ。不当逮捕や虐待に抗議する黒人が警官隊と衝突して、手のつけられない混乱が全米に広がっていた。

 中でも1967年7月のデトロイトの暴動は最悪だった。キャスリン・ビグロー監督の「デトロイト」は、騒然とした時代の空気をドキュメンタリータッチで克明に再現する。

 自動車産業で栄える町に黒人労働者が集まり、酒場や劇場から新たな文化が生まれる。だが、警察の手入れの標的となり、黒人たちは野良犬のように連行されていく。警官に対する不信と憎悪が些細なきっかけで爆発して、放火、略奪の暴動が始まる。

 その混乱の中で起きたのが、「アルジェ・モーテル殺人事件」だ。この惨劇を映画は、実在のグループ、ザ・ドラマチックスのメンバーを軸に、居合わせた黒人警備員という「第三者の目」で追っていく。

 衝撃的なのは、事件を起こした白人警官たちの対応だ。逃走する黒人青年を背後から射殺。その手元にナイフを置いて、「相手が先に襲ってきた」と口裏を合わせる。居合わせた宿泊客に次々と拷問を続ける。制服を着た警官による、尋問という名の「リンチ」なのだ。

 警官たちは起訴されて裁判にかけられる。法廷で激しい論争が繰り広げられるが、白人で占められている陪審の結論は見えている。判決を聴いた黒人警備員が、裁判所の植え込みで嘔吐する場面が、なんとも胸に重い。

 オバマ氏が米大統領に選出された時、「アメリカは変わった」と感嘆した人は多かっただろう。しかし、人種対立が解消に向かうことはなかった。白人警官による黒人虐待への抗議は、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」という運動になって続いている。

 米社会の亀裂や分断は、トランプ政権でいっそう深まっている。「デトロイト」は、半世紀前の物語ではない。

 


ゲスト / Guest

  • 「デトロイト」 / DETROIT

ページのTOPへ