2017年10月27日 17:30 〜 19:40 10階ホール
試写会「否定と肯定」

会見メモ

公式HP※12月8日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国で公開


会見リポート

映画が問う「ポスト・トゥルース」の時代

中村 秀明 (毎日新聞社論説委員)

 「ホロコーストはでっちあげ」「ヒトラーは大量虐殺など命じていない」。そう主張する歴史家に、自著で反論した歴史学者が名誉毀損で訴えられる。争う余地などない事実が議論となった裁判が2000年のロンドンで繰り広げられた。

 

 映画「否定と肯定」はこの事実に基づいている。被告となった米国人の歴史学者、デボラ・リップシュタット氏が当クラブでの試写会を前に会見した。

 

 彼女は「こんなに今日的な意味を持った作品になるとは思ってもいなかった。もちろん意図したことではない」と切り出した。

 

 映画化の話が持ち上がったのは2009年。「フェイクニュース」や「ポスト・トゥルース」という言葉はなかった。自分に好都合だったり、自らの感情や信念にあったりすれば、虚偽であってもその情報を受け入れるといった風潮の広がりなど想像すらできない時期だ。

 

 だが今や、歴史上の出来事やどんな視点からも揺るがないはずの客観的事実が危機にさらされている。「率直で精力的」と言われる彼女は熱弁をふるった。

 

 「個人的な意見や解釈は構わないが、個人的な事実などはない」

 

 「なぜ起きたか、どんな背景があったかは議論できる。しかし、事実かどうかは議論できないのです」

 

 映画では老弁護士と原告の歴史家の存在感が光る。そして、よく練られ、言葉が吟味された脚本によるセリフがずしりと胸に響き、余韻を引いた。表現に携わる者には必見の作品だろう。

 

 ところでリップシュタット氏は会見前に靖国神社の遊就館を訪れ、特攻隊員の遺書も読んだ。戦争研究者として感じたのは、強いられた若者の死を賞賛するかのように扱うことへの怖さだったという。


ゲスト / Guest

  • 否定と肯定 / Denial

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