2017年10月10日 16:00 〜 17:30 10階ホール
マクラムーオベイド カイロ・アメリカン大学教授 会見「革命後のエジプトの挑戦と政治体制の行方」

会見メモ

政治活動歴もある政治学者のモナ・マクラム-オベイド(Mona Makram-Ebeid)教授が、2011年の「エジプト革命」後の状況と展望について話した。「エジプトのムスリム同胞団系政権を軍が倒した13年の政変はクーデターではなく国民による弾劾」と説明。「軍出身のシシ政権は経済的には成果をあげたが、政治的には野党もなく言論の自由も抑圧しており民主化への課題はある」

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

通訳 西村好美(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

「イスラム主義の大統領逮捕は、軍事クーデターでなく国民による弾劾だった」

原田健男 (山陽放送出身)

 中東に吹き荒れた「アラブの春」の嵐。自由や民主主義を求めて若者たちが立ち上がったのだが、エジプトの場合結末は大きく違っていた。既存体制を倒し、選挙で新たに選ばれた大統領は、酒の販売や音楽を規制するなどし、さらにイスラムの戒律で国民を縛る新憲法を制定しようとした。そして再び若者たちがこれに反対するため立ち上がり大混乱に。会見したオベイド教授は、この混乱の収拾のため軍に出動を要請したグループのメンバーでもある。

 

 「エジプトで起きたことは軍事クーデターでなく、国民による大統領の弾劾です。アメリカでニクソン大統領に対して起きたものと同様のものです。イスラム主義のムスリム同胞団出身のムルシ大統領は、お祈りの時間を強制するなど神権政治を進めようとしたため、エジプトの国民に嫌われたのです。」と教授は強調した。

 

 世界中から観光客が訪れるエジプト、特に首都カイロはホテルやナイトクラブも多く、酒も飲めるし、音楽も演奏されている。イスラム主義の大統領はそれを制限しようとし、デモの騒乱も加わってエジプトの観光業は大打撃を受けることになった。このため軍が介入し大統領は逮捕。軍出身のシシ新大統領が全権を握り、経済と政治の安定化を図っているが、課題も多く残っている。燃料や食料などに出していた補助金をカットし、歳出を削減する一方、投資を呼びかけているが、通貨のエジプトポンドは、この1年でドルに対し3倍近く下落するなど経済の立て直しは順調とは言い難い。

 

 また、教授は「今は宗教との戦い・テロとの戦いが優先し、言論・報道の自由は抑圧的になっています。国民はまず安定を望んでいるので耐えていますが、今後は反対意見を吸い上げる野党などの存在が必要になるでしょう」と話し、軍政から民政にいつ移管できるかが大きな課題として残っていることを示した。

 


ゲスト / Guest

  • モナ・マクラム・オベイド / Mona Makram-Ebeid

    エジプト / Egypt

    カイロ・アメリカン大学教授 / Professor, the American University in Cairo

研究テーマ:革命後のエジプトの挑戦と政治体制の行方

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