2017年12月15日 15:30 〜 16:45 10階ホール
著者と語る『詩人なんて呼ばれて』 語り手:谷川俊太郎氏、聞き手:尾崎真理子読売新聞編集委員

会見メモ

 

司会・聞き手 尾崎真理子 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

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会見詳録


会見リポート

「詩の言葉」を信じて

井上 卓弥 (毎日新聞社学芸部編集委員)

 12月15日。86歳の誕生日に初めて日本記者クラブのマイクに向かった。60年以上経っても文庫化、増刷が続く出発点の詩編「二十億光年の孤独」について、まずひとこと。

 

 「20億光年なんて時代遅れで、宇宙は137億光年まで育っているのに。なぜいまだに読まれるのか、よく分からないんですけどね(笑)」

 

 3年がかりのインタビューと評伝を交互に重ねた新著『詩人なんて呼ばれて』に沿って、聞き手をつとめる文芸評伝の名手、尾崎真理子氏の真摯な問いに自然体で答えてゆく。

 

 戦後詩や詩壇を超越して輝き続ける無二の存在。創作を支える根源的な思念の一端を垣間見せた。例えば、あらゆる言葉が浪費される中、詩の言葉が長く残るのはなぜか。

 

 「文字を使う作品の中で、詩が一番音楽に近いのは確か。散文の言葉は理性的、左脳的な論理で結びつくけれど、詩の言葉は右脳的な、あいまいな形でつながる。観念的な意味から違うところにシフトして意識下にまで入り込むんじゃないかな」

 

 フッと話題をそらしたかと思うと、次の瞬間には一転、次元の異なる深い領域へ一気に踏み込んでゆく。鮮やかな展開は、詩編を味わう時の驚きにも似てスリリング。

 

 詩に託す信念ものぞかせた。

 

 「言語そのものが、善悪とか美醜とか、概念的に2つに分けてしまう。本当はそんなに簡単に割り切れない。だから、分裂したものを1つにまとめるのが詩の言葉、という意識がある」

 

 右にも左にも与しない「谷川ワールド」の清々しさの秘密が見えた。

 

 最後に本のカバーを外すと、北軽井沢の夏の緑に染まるフィアット500(チンクエチェント)をあしらった表紙が現れた。「装丁のおかげでイタリアからお礼状が来ましたよ」と笑わせ、言葉の魔力に満たされたひとときをしめくくった。


ゲスト / Guest

  • 谷川俊太郎 / Shuntaro Tanikawa

    詩人 / poets

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