2017年08月21日 15:00 〜 16:30 9階会見場
著者と語る『戦禍に生きた演劇人たちー演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』 堀川惠子・ジャーナリスト

会見メモ

『原爆供養塔』で2016年度の日本記者クラブ賞特別賞を受賞した堀川さんの最新作。広島で被爆し隊員全員が亡くなった移動劇団「桜隊」の演出家・八田元夫の膨大な資料を手がかりに隊員たちの足跡をたどった。戦前・戦中・戦後の演劇史を追った思いとは――。

 

司会 倉重篤郎 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

最後に見つかった新資料 今を生きる人へのメッセージ

 青島 顕 (毎日新聞東京本社社会部編集委員)

作品を発表するたびに、積み重ねた取材と緻密な構成力を見せつける堀川さん。新著『戦禍に生きた演劇人たち』も13年間の努力の成果だ。

 

2005年、広島原爆で全員が犠牲になった移動劇団「桜隊」を描いたNHKドキュメンタリー「ヒロシマ・戦禍の恋文」を制作した。高い評価を得たが、自身は仕上がった瞬間から心残りがあったという。

 

広島での悲劇は伝えることができたが、東京の演劇人9人がその瞬間、なぜ広島にいなければならなかったのかをつかめなかったからだ。「たどることができなければ、(桜隊の人たちに)失礼だと思ったが、生の資料がまったくない」のだ。

 

桜隊の演出家で、原爆投下の瞬間はたまたま東京にいた八田元夫(1903-76年)の遺品を探した。劇団の歩みを知るただ一人の証人であり、当事者だからだ。ところが「メモ魔」と評される八田の資料がなかなか見つからない。

 

早稲田大演劇博物館にあるという情報を聞いたが、何度問い合わせても「ない」と言われた。データベースに登録されていないからだ。「保管していた演劇人が老人施設に入る際に寄贈した」という具体的な証言を得て、もう一度探してもらった結果、ようやく倉庫から段ボール10箱の未整理の資料が見つかった。昨年秋のことだ。データベースは便利だが、ときには取材を妨げる盲点になることを教えてくれた。

 

それまでに聞き取った約20人の証言や集めた資料に、八田の遺品を組み合わせることで、八田や隊員たちの歩みを描くことに成功した。治安維持法が社会を覆い、大弾圧を受けても演劇を続けた人たちの生き方が浮かび上がった。

 

この作品は時代の曲がり角にある「今」を生きる人へのメッセージだ。戦争の証言者がいなくなる時代にどんな取材をすべきなのか。そんな問いへのヒントも与えてくれた。


ゲスト / Guest

  • 堀川惠子 / Keiko Horikawa

    日本 / Japan

    ジャーナリスト / Journalist

研究テーマ:『戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』

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